新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は9月4日、NEDOと高エネルギー加速器研究機構(KEK)がKEKの大強度陽子加速器施設「J-PARC」に建設を進めてきた蓄電池専用解析施設「RISING中性子ビームライン(SPICA)」が完成したことを発表した。

再生可能エネルギーへの期待の高まりや電気自動車の普及などでリチウムイオン電池の需要も高まっているが、そのさらなる性能向上が重要な課題となっている。その一方、従来型の蓄電池は理論的な性能限界も見えてきており、世界最高水準にある日本の蓄電池分野での競争力を維持、向上させていくためには、従来の延長線上ではない革新的な蓄電池の開発を進めることが重要とされている。

RISINGはResearch and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteriesの略で、2009年から2015年までの7年計画による「2030年に500Wh/kg(現状比5倍)のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指す」プロジェクト。総予算は約210億円が見込まれており、京都大学および産業技術総合研究所関西センターを拠点として、10大学・4研究機関・12企業が協力して研究開発を進めている。

同プロジェクトでは、2つの異なる特長を持つRISINGビームラインの整備が計画されている。1つ目はマンガンや鉄、コバルトなど重い元素の挙動を精密に観察することができる「RISING放射光ビームライン(BL28XU)」で、2012年4月より大型放射光施設「SPring-8」にて運用が開始された。

もう1つは、今回完成したリチウムや酸素など軽い元素の挙動を観察する「RISING中性子ビームライン(SPICA)」で、2つのRISINGビームラインを相互補完的に用いることで、充電中や放電中など実作動状態にある蓄電池の中で何が起きているのか、これを原子レベルで明らかにすることが可能になるという。

SPICAは、実動作状態にある蓄電池に中性子を照射しながら、構成材料の原子配列をリアルタイムで観察することができる蓄電池専用設備で、J-PARCのパルス中性子を利用し、蓄電池を構成するさまざまな材料中の原子配列を調べ、組成と構造を分析する中性子回折装置を活用することで、中性子の特徴からリチウム、酸素といった軽い元素が関係した蓄電池の反応機構の解明が進められる。

同装置は、中性子の直進性を活用し、約50mほどの中性子導管を用いることで、中性子の飛行距離による高い分解能を有する一方、先端光学デバイスを駆使して大強度の中性子線を試料位置まで輸送することが可能だという。また、最大2mの試料スペースで、さまざまな電池の動作環境や材料合成環境として高温・低温、ガス雰囲気、湿度、高圧環境を再現するとともに、電池材料を想定される動作環境状態で測定、構造変化を解析することも可能だという。

さらに、専用化学実験室およびストレージスペースが併設されているため、長期保存された蓄電池の劣化機構の解明など専用ビームラインでしかできない高度な実験の実施も計画されており、その成果を電極などの材料開発にフィードバックしていくことで、世界に先駆けた革新型電池の開発につなげていく方針だという。

SPICAの実験棟外観

SPICAの中性子回折装置