朝日新聞社広告局は、「第60回 朝日広告賞」の「一般公募の部」各賞、ならびに「広告主参加の部」各賞を発表した。多くの魅力的な受賞作の中から、各部のグランプリと準グランプリを紹介していく。

「一般公募の部」は商品をあえて見せない広告がグランプリに

参加広告主が提示した課題に対して、未発表のオリジナル作品を募集する「一般公募の部」。この部でグランプリにあたる「朝日広告賞」を受賞したのは、セールス・オンデマンドの課題「アイロボット社が開発したロボット掃除機「ルンバ」」に対する作品で、作者は電通のアートディレクター・前田彩さんだ。

同作品に対し、審査員からの講評として「家庭に新しいものがやってきた、という感じが表現できている。スペースの使い方、写真の仕上げ方など、難しいことをうまくやっている」(佐藤可士和氏)、「スペースの使い方が、商品特性に合っている。端っこにいる犬や猫が、あまりにも床がきれいで気が引けているような感じも深読みできてよかった」(タナカノリユキ氏)などといったコメントが寄せられた。

〈アイロボット社が開発したロボット掃除機『ルンバ』〉3点シリーズ

準朝日広告賞を受賞した作品は、大日本除虫菊の課題「キンチョール」に対する2作品。合掌と蚊を叩く様子をかけた30段広告と、殺虫剤で虫を追い詰める様子を、15段広告で見せた両作品が受賞した。

今井祐介さん、佐藤舞葉さん、辻本浩太郎さん、八野田翔さんによる合作

中山智裕さん、大西英也さん、青松正芳さんによる合作

「広告主参加の部」は"復興支援"の気持ちを込めた作品が受賞

続いて、朝日新聞に掲載し、企業がエントリーした広告の中から、その時代の新聞における最も優れた広告活動を選出する「広告主参加の部」に移る。

「広告主参加の部」で朝日広告賞を受賞したのは、エルメスジャポンが企画し、Publicis EtNousが制作した「クリスマスキャンペーン・8点シリーズ」。クリスマスシーズンにさしかかる12月11日の朝刊に、フルカラーの全15段広告を4面にわたって掲載し、さらに13日の朝刊から1週間にわたり、クオーター広告を1点ずつ展開した。

12月11日の朝刊に掲載された全60段広告。震災の年であったため、ラグジュアリーブランドの新聞広告の掲載に悩んだものの、「つらいことがあった年だからこそ、人々の心に灯火をともすようなサプライズ、明るいプレゼントを届けたい」という思いから実現した

審査員からは「色合いが、ダリの絵画のよう。クリスマスツリーの上にいる馬や、アーチ型の白壁の雰囲気もシュールでダリっぽい。絵の強さ、芸術性で勝負していて、エルメスの自負みたいなものを感じた」(弘兼憲史氏)、「マスメディアの広告において、ラグジュアリーブランドがどうあるべきかという1つの回答を示した」(茂木健一郎氏)などといった講評が寄せられた。

〈行くぜ、東北。〉(企画/制作・電通)

準朝日広告賞を受賞したのは、東日本旅客鉄道の「〈行くぜ、東北。〉」。審査員からは、「震災後、東北を応援するために旅行に行こう、という動きが出始めた時期に出稿された広告だったと思う。『祝祭』のような表現はしにくい中、しんみりとしたモノクロではなく、東北らしい色合いを印象づけた。駅張りポスターも同様のビジュアルが展開されたが、新聞広告とともに色の記憶が鮮明に残っている」(日比野克彦氏)など、震災直後の世相に合ったデザインが評価された。

Twitterで話題になった「小学一年生」広告も入選

2012年7月中旬、TwitterなどのSNSを中心にインターネット上で話題となった「小学一年生」の広告。漢字テストの添削をモチーフにした痛烈な世相風刺が注目を集めたが、これは同賞の「一般公募の部」入選作品であり、実際に「小学一年生」本誌に掲載されたものではない。

〈小学一年生〉(中川紗佑里、八木澤純)

審査員講評にも、「実際の掲載は難しい表現だと思うが、批評精神があって、上手に社会と遊んでいる感じが、コンペならではという感じがした」(岡田直也氏)とある通り、コンペだからこそできる企画の切れ味の鋭さが、話題を呼んだ要因なのかもしれない。

いまを切り取ったフレッシュな広告表現が多数入賞

ここまでにピックアップしてきた作品以外にも、朝日広告賞のWebサイトではその他の受賞作品が公開されており、「一般公募の部」グランプリへのインタビューや、「広告主参加の部」グランプリとなったエルメスジャパン広報担当へのインタビューも掲載されている。広告のクリエイティブに興味のある人はチェックしてみてほしい。