千葉工業大学(千葉工大)未来ロボット技術研究センター(fuRo)は7月12日、福島第一原子力発電所(福島第一原発)の原子炉建屋内部などでの利用を前提として開発した過酷災害対応ロボット「Rosemary(ローズマリー)」を発表した。

千葉工大が関わった原発向けロボットとしては、2011年6月より提供し、現在2号機と3号機が現地で活動している「Quince」があるが、Rosemaryはその後継機ではなく、ゼロから機構設計を行った、まったくの新型機となっている。

Rosemaryの外観と各機能の概要

これは、すでに3号機合計で13回のミッションを行い、建屋の1階から5階まで調査を行って得られたQuinceのノウハウを元にしつつも、「ターゲットを福島第一原発に限定したとしても、今後の作業で要求される性能に改良ベースでは追いつかないと判断した」とのことから、新規設計に踏み切ったという。

Quinceが撮影した原子炉建屋内部映像。2号建屋5階では800mSvを超す線量が観測された

原発用に特化したRosemaryだが、外観の本体サイズはQuinceとほぼ一緒で、横に並ぶと、良く知らない人が見たら、同じに見えるほどだ。ではQuinceとどこが違っているのか。最大のポイントは「現場作業者の負担を減らすことを目的とした知見の実装」とのことで、Quinceではバッテリの充電のために、一度バッテリをQuinceから外す必要があったが、Rosemaryではプラグイン充電方式を採用。コンセントをプラグに挿すだけで充電が可能となり、「原子炉建屋に入ったQuinceも被曝しており、バッテリ交換も10-20分かかるのでその間、作業者も被曝する。プラグイン方式ではほんの数秒で充電を開始できるので、作業者への被ばく量を抑えることができる」という。また、原子炉建屋などに電気が通るようになった後などに、充電ステーションを用意して、ステーション側がプラグ位置を検知してハンドリングして自動的に充電ができるといったシステムも検討しているという。

左がRosemary、右がQuince。パッと見でどっちがどっちと思うほど似通っている。これはQuinceの形状、機構がある意味、完成形だという(ホイールベースが長いと踊り場で小回りが利かないし、短ければ階段が上りづらいということもあり、このサイズがベストという判断になったとのこと)

このプラグイン充電化に伴い、現場からの要望が強かったバッテリによる稼働時間の延長のためにバッテリ搭載量を約3kg増加、これにより稼働時間は従来の3時間から5時間に、メンテナンス期間も従来の3~6カ月以内から3年以上不要のメンテナンスフリー化が施された。

プラグイン充電部。コンセントとはマグネットで脱着するので、添えるだけで充電が可能となり、取り外しも容易にできるようになった。ただしこの仕様により、バッテリを取り外すことはできなくなっている

ただし重量が増したことに対応するために走行用モータの出力を60Wから150Wに変更したほか、建屋内部は除染しやすい塗料などの影響で階段部分で滑落しやすいなどの経験から、クローラのパターンをより溝の深いものに変更したり、メインフレームの強靭化やダンパー機能の強化、放熱機能の強化などを行った結果、機体重量はQuinceの26kgから約16kg増の42kgへとなった。

Quinceからの変更点と重量増加の内訳

この機体強度の向上により、ペイロードは従来機の20kgから60kg(機体バランスを考慮しなければさらに行けるという)へと3倍増加され、これまでできなかった重い計測器の建屋内運用やモニタリング作業、資材運搬やサンプルの持ち帰りなども容易に行えるようになる。

長時間稼働とペイロードの増加により、これまでできなかった作業もできるようになってくる

動画
Rosemaryによる階段を昇るデモ。階段の塗料は原発建屋内部の階段に使用されているものと同じものを使用。除染をしやすくするため、非常に滑りやすく、実験でも滑落がかなりあったとか(wmv形式 18.9MB 1分18秒)
Rosemaryによる階段を降るデモ。総量60kgのバーベルを背負い? 40°の勾配の階段を上り下りすることが可能だ(wmv形式 17.1MB 1分11秒)
動画
60kgのバーベルに加え、ヒト1人を乗せても重量バランスなどを気にしなければ移動可能(wmv形式 5.09MB 20秒)

さらに、Quinceからの改良点として、通信ケーブルの巻き取り装置が縦型だったものが横型へと変更された。これにより振動による緩み、弛みがなくなるほか、ケーブル巻き取り量の増加が見込めるようになり、従来と同様の太さのケーブルであれば500m以上の通信距離を確保できるようになるほか、より太くて通信量を確保できるケーブルへと変更することも可能になったという。

通信ケーブルの巻き取り方法としては水平方式を採用。これにより、Quinceと比べてケーブルの巻き取り量を増加できるようになったほか、振動による緩みや弛みを防げるようになった
実際にケーブルを巻き取る様子。均等にケーブルをドラムに巻き取る様子が見て取れる(wmv形式 9.56MB 38秒)

このほか、建屋内部に設置された緊急システム系は普段使用しないため天井などの高所に配置されており、それが使用可能かどうかを調べる必要があるため、高所カメラユニットも用意された(チルト角±180°)。これは通常1.2mの高さだが、最大で3mまで昇降可能で支柱部分は±40°まで傾斜が可能となっている。この傾斜は、階段昇降時の重心位置制御や踊り場での側面衝突回避のために必要となる確度だという。

高所カメラユニットに搭載されているのは「サーモカメラ(前方方向)」「前方カメラ」「後方カメラ」「天井カメラ(天井方向)」の4つ。サーモカメラは建屋内の温度分布情報の取得のために用いられるほか、天井カメラは、昇降時に天井に衝突することを防止するために用いられる。

高所カメラユニットの概要と昇降機能の概要

左が高所カメラユニットが1.2mの高さにある状態。右が高所カメラユニットを3mの高さまで昇降させた状態

高所カメラユニット前面。上の四角いカメラがサーモカメラ

サーモカメラが撮影した画像

高所カメラユニット後面。サーモカメラの後ろについている小さいカメラが天井カメラ

ちなみにRosemaryの耐放射線性に関しては、CPUボードやバッテリIC、画像処理モジュール、通信モジュールなどはQuinceと同等システムのようで、Quinceを用いた被曝実験では総量200Svでも壊れなかった(160Svでレーザレンジセンサとカメラ素子が壊れた)とのことで、これを元に試算したところ、最大で900mSv近い場所にも赴くものの、建屋内の線量は平均して50mSv、ここに3時間程度、作業のために赴いたとしても、100回作業しても壊れない計算になる。「もし、システム部分の耐放射線性を向上させようとして鉛の遮蔽を行おうとすると、線量を半分にしようとすれば約21kgの鉛が必要となり、単純に重さが増すだけ」とのことで、そういった遮蔽は行わないことにしたという。それよりも問題になるのが、「モジュールのバックアップ用電池。Rosemaryは3年以上の運用が可能としているが、ここの部分が3年持たない可能性がある」とのことで、モジュールの電池寿命がポイントになる可能性を示唆している。

なお、Rosemaryは今後、千葉工大で稼働テストを2週間ほど行った後、東京電力(東電)に引き渡され、東電側でさらに2週間テストが行われる予定。そこでOKが出てはじめて原発への投入が行われることになるので、早くても8月の中旬もしくは下旬ころになる見込みだという。また、投入台数についても、1台なのか2台になるかについても不明(現在稼働可能な台数は2台。2号機と3号機。1号機はプロトタイプでスカイツリーの同大東京スカイツリータウンキャンパスにてデモ公開されている)としている。