5月21日、東京慈恵会医科大学にて、「ミネラルと生活習慣病」セミナーが開催された。同セミナーは、日本糖尿病学会 関東甲信越支部(支部長 宇都宮一典氏)と、マグネシウムの啓蒙・啓発活動を推進する協和化学工業株式会社の共催である。
壇上では、座長の東京慈恵会医科大学 内科学講座 糖病・代謝・内分泌内科の主任教授、宇都宮一典氏があいさつし、続いて同大学教授・医学博士である横田邦信氏が生活習慣病とマグネシウムに関する基礎的な説明を述べた。
日本人は糖尿病になりやすい?
横田氏は、多くの生活習慣病がインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)と関連していると指摘する。
日本人は欧米人と比べると、インスリンの分泌能が弱いので、インスリン分泌の代謝不全を起こし、容易に2型糖尿病(DM)を発症しやすいそうだ。
また、日本人は、大幅なマグネシウムの摂取不足に陥っており、それがインスリン抵抗性を招いているという。そのため、腹部肥満にもとづくインスリン抵抗性にくわえて、慢性的なマグネシウムの摂取不足によるインスリン抵抗性がDMの原因として考えられるそうだ。これは、食生活の半欧米化や、穀物摂取量の減少が一因といえる。
これまで、ナトリウムやカルシウムに関してはさまざまな研究が行われてきたが、マグネシウムについては重要性が容認されてこなかった。しかし、糖尿病をはじめとする慢性疾患にも効果が確認されているので、今後もマグネシウムの啓発活動を行うとのことだ。
マグネシウムの摂取で糖尿病のリスクを軽減
今回のセミナーでは、Dr.Ka He,MD,ScD,MPH(以下、「Dr.Ka He」)による「糖尿病、メタボリックシンドローム、慢性疾患とマグネシウム摂取との関係(Magnesium intake in relation to diabetes, metabolic syndrome and other chronic diseases)」についての講演も行われた。
Dr.Ka Heは、米国ハーバード大学で栄養疫学の博士号を取得し、現在米国ノースカロライナ大学ギリング・グローバル公衆衛生学部、医学部栄養疫学准教授として活躍中。研究分野は、栄養疫学、とくに心血管疾患、糖尿病、肥満、およびそのほかの慢性疾患に関係する食事と栄養素が中心だ。
Dr.Ka Heによれば、「マグネシウムの摂取が糖尿病のリスクを下げる」という見解は正しいとのこと。1日100mgずつ、マグネシウムの摂取量を増やせば、糖尿病のリスクは14%ずつ減るという。
マグネシウム摂取の副作用に関しては、メキシコで行われた臨床試験で「副作用はまったく見られなかった」というエビデンスが出ているとのこと。さらに、この臨床試験では、被験者のベータセルの機能が上がったという結果も報告されている。
マグネシウムは、全粒穀物、ナッツ類、青い葉野菜に多く含まれているが、Dr.Ka Heは、調理によってその多くが失われてしまうことを指摘。そのため、マグネシウム欠乏症の患者はとくに、サプリメントの摂取が不可欠だそうだ。
また、「過体重の人はマグネシウム摂取による効果が出やすい」とし、メタボリックシンドロームのリスクを低減させる可能性が高いことを指摘した。
進行中の動脈硬化や脳卒中にも効果が期待できる
高血圧への関連性については、「最新のデータで血圧レベルが下がった」というエビデンスを示した。
1,000名以上の被験者、22の臨床試験では、1日に120~973mg(平均410mg)のマグネシウム摂取により、最低血圧が2~3mmHg、最高血圧が3~4mmHg下がることが証明されたという。しかし、血圧とマグネシウム摂取の関連性は、臨床試験数やデータ数が不足しており、まだ研究段階にあるそうだ。
同セミナーの参加者には医師の姿が目立ち、講演後も活発な質疑応答が行われた。「(日本を含む)アジアでの講演で、こんなにたくさんの質問が寄せられたのは初めてです。皆さん、積極的で素晴らしいですね」とDr.Ka Heは笑顔を見せた。
東京慈恵会医科大学で医師として活躍する男性の「マグネシウムを摂取することで、進行した動脈硬化や脳卒中の患者にどのような影響を与えますか?」という質問に対して、Dr.Ka Heは、「(進行した患者に対しても)おそらくベネフィットはあるのではないかと思います。ただし、まだこれから研究が必要」と答えた。
最後に、「マグネシウムの研究は、まだはじまったばかり。これからさまざまなデータ解析等を通して、慢性疾患との関連性を解明し、さらにマグネシウム摂取の適正量についても詳しく調べていく必要があります」と締めくくった。
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