東京工業大学(東工大)の尾上順 准教授、名古屋大学(名大)の伊藤孝寛 准教授、山梨大学の島弘幸 准教授、奈良女子大学の吉岡英生 准教授、分子科学研究所の木村真一 准教授らの研究グループは、1次元伝導電子状態において、理論予測されていたリーマン幾何学的効果を実証したことを発表した。同成果は、欧州物理学会速報誌「EPL(Europhys. Lett.)」にオンライン掲載された。

1916年、アインシュタインは一般相対論を発表し、その中で重力により時空間が歪むことを予想。4年後、光の重力レンズ効果の観測により、その予想が実証されることとなった。これは、光が曲がった空間を動くことを実証した初めての例であった。

光の重力レンズ効果。星(中央)の真後ろにある銀河は通常見えないが、その星が重いと重力により周囲の空間が歪み(緑色部分)、その歪みに沿って光も曲がり(黄色)、真後ろの銀河からの光が地球(左下)に届き、銀河が観測される

その一方で、電子系ではどうかというと、半世紀以上前から、曲がった空間(リーマン幾何学)における電子挙動に関する理論や予測は数多く報告されているものの、それを実証する物質群はこれまでなかったのが実情である。

これまで研究グループでは、フラーレンC60薄膜に電子線を照射することで、1次元ピーナッツ型凹凸周期構造を有する金属フラーレンポリマーが生成されることを見出していた。

1次元金属ピーナッツ型凹凸周期フラーレンポリマーの構造図(左上)と凹凸曲面上に沿って動く電子(右下黄色部分)の模式図

また、2009年には、その炭素原子ネットワークを滑らかにした1次元凹凸曲面上を動く自由電子系についてリーマン幾何学効果を取り入れた理論解析の結果、Arの大きさに比例して、伝導電子の状態が影響することも予測していた。

1次元凹凸周期曲面電子系のモデル図

しかし、実際にそのような電子状態が実現しているかどうか、実験的な確証は得られていなかった。今回、この1次元金属ピーナッツ型凹凸周期フラーレンポリマーの伝導電子の状態を光電子分光で調査した結果、このリーマン幾何学効果を取り入れた理論予測が見事に再現されることが確認された。この成果は、1次元電子状態が純粋に凹凸曲面(リーマン幾何学)に影響を受け、凹凸周期曲面上に沿って電子が動いていることを初めて実証したものだという。

近年、リーマン予想や位相幾何学、八元数など自然科学とは一見何の関係もない純粋数学が実は密接に自然科学と関係することがわかりつつあり、現代数学と自然科学の新たな展開が始まっている。研究グループでは、今後の展開として、電子状態以外に物質系の光学物性・熱物性・電子伝導物性など、理論予測されているリーマン幾何学的効果の実証を行うことで、現代幾何学と物質科学の新たな学問体系(物理量と幾何学数量との相関関係)を世界に先駆けて構築していきたいとしている。