理化学研究所(理研)は3月26日、日本人の関節リウマチに関する「ゲノムワイド関連解析」の大規模な「メタ解析」を行い、疾患発症に関わる9つの新たな遺伝子領域を発見したと発表した。同時に、すでに報告されていた36の遺伝子領域についても再評価も実施し、14の遺伝子領域が日本人の関節リウマチ発症に関与していることを究明。合計23の遺伝子領域の内、15が欧米人と共通であることも明らかとなった。

成果は、理研ゲノム医科学研究センター自己免疫疾患研究チームの高地雄太上級研究員、山本一彦チームリーダーと、東京大学、京都大学、東京女子医科大学を中心に構成されたGARNETコンソーシアム、およびハーバード大学を中心とする欧米研究グループとの国際共同研究グループによるもの。詳細な研究内容は英科学誌「Nature Genetics」への掲載に先立ち、日本時間3月26日付けでオンライン版に掲載された。

関節リウマチは、自己のタンパク質に対する免疫異常によって発症する代表的な「自己免疫疾患」で、国内に約50万人の患者がいるとされている(出典:厚生労働省資料)。

自己免疫疾患とは、本来、ウイルスや細菌など外来性異物を排除するために働く免疫システムが、さまざまな要因によって、自分の体を構成する成分に対しても攻撃(自己免疫反応)して起きてしまう疾患の総称だ。関節リウマチ以外にも、甲状腺の機能異常を引き起こすバセドウ病や1型糖尿病、全身性エリテマトーデスなど多数がある。

これまでの研究から、関節リウマチの発症には多くの遺伝因子や、喫煙などの環境因子が関わることは判明済みだ。遺伝因子としては、個人における遺伝子の塩基配列の多様性、すなわち遺伝子多型が疾患のかかりやすさに影響を与えていると考えられている。

関節リウマチに関与する遺伝子多型の多くは、その疾患にかかっていない健常人もごく普通に保有するありふれた遺伝子多型だ。これらの遺伝子多型は、その遺伝子の機能を質的・量的に変化させて、個人が示す免疫反応の強さなどに影響を与える。

これまで、ゲノムワイド関連解析によって関節リウマチ発症に関与する遺伝因子が国内外の研究グループより複数報告されてきた。しかし、個々の遺伝因子が疾患発症に与える影響は非常に小さく、それぞれの研究では明らかにできていない遺伝因子が多くあると考えられてきたのである。そこで研究グループは、これらのGWASのメタ解析を行うことにより、これまでにない規模での包括的な遺伝因子探索を実施したという次第だ。

なお、ゲノムワイド関連解析とは、病気に罹患している集団と、一般対象集団との間で、遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して、疾患と関連する領域・遺伝子を同定する手法のことをいう。

検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが生じる確率)が小さい多型ほど、関連が強いと判断できる。ゲノムワイド関連解析では、通常、ヒトゲノム全体を網羅するような数百万ヵ所の「一塩基多型」を用いて解析する。

その一塩基多型だが、これはゲノムの塩基配列の違いの内、集団での頻度が1%以上のものを「遺伝子多型」と呼び、中でも一塩基の違いによるものを一塩基多型と呼ぶ。英語表記のSingle-nucleotide polymorphismを略したSNPと呼ばれることもある。

このわずかな違いでも、個人の体質や疾患にかかり易すい度合いは、環境要因と共に大きく影響するため、オーダーメイド医療の実現にはこうしたわずかな違いがどう影響するかを調べていくことが重要だ。

そしてメタ解析についてだが、過去に行われた複数の研究結果を統合し、より信頼性の高い結果を求めること。また、そのための統計解析手法のことである。

メタ解析では、これまで日本人で行われた3つのゲノムワイド関連解析データを用いて、関節リウマチの患者集団4074人と非患者集団1万6891人について、ヒトゲノム全体に分布する約200万個の一塩基多型を対象に、そのタイプ別頻度を統計学的に比較検討し、関節リウマチの発症と関連している一塩基多型を探索した。

また、この解析によって発見した一塩基多型について追認解析を行うため、別に集めた患者集団5277人と非患者集団2万1684人と比較して、結果の再現性が確認された形だ。

その結果、新規の遺伝子領域として9つの領域(B3GNT2、ANXA3、CSF2、CD83、NFKBIE、ARID5B、PDE2A-ARAP1、PLD4、PTPN2)の一塩基多型が疾患発症に関連していることが明らかになった(画像1)。

画像1。日本人関節リウマチにおけるゲノムワイド関連解析のメタ解析結果

これらの遺伝子領域に存在する遺伝子の多くは、リンパ球などの免疫系の細胞で発現しており、免疫系を過剰に活性化することによって、疾患発症に関わっていることが考えられる。いずれの遺伝子でも、発症しやすいタイプとしにくいタイプがあり、発症しやすいタイプの遺伝子は健常人でも20%~80%の頻度がある状況だ。

また、それぞれの遺伝子の発症しやすいタイプを持つと、1.1倍~1.2倍程度疾患にかかりやすくなることも判明。従って、これらの遺伝子のタイプの組み合わせによって、個人の発症の可能性が決まると考えられている。

新規に明らかとなった9つの遺伝子領域について、ほかの自己免疫疾患の発症にも関与していないか検討したところ、ANXA3遺伝子領域が全身性エリテマトーデスと、B3GNT2およびARID5B遺伝子領域がバセドウ病発症にも関わっていることが明らかになった。このことから、関節リウマチとほかの自己免疫疾患の原因となる遺伝子領域は、一部共有されていることがわかったのである。

さらに、これまで国内外で報告されてきた関節リウマチの発症に関与する36遺伝子領域について再評価を行ったところ、今回発見した9領域と合わせて23遺伝子領域が日本人の発症に関与していることが確認された。

また、欧米人グループによって行われたメタ解析の結果と比較し、遺伝因子における人種間の違いも調査。すると、23遺伝子領域の内の15領域が共通であることが判明(画像2)。一方で、残りの8領域については、欧米人での関連がはっきりしないため、関節リウマチの遺伝因子には少なからず人種差があることが考えられた次第である。

画像2。日本人と欧米人における関節リウマチ発症に関わる遺伝因子

関節リウマチの治療法はここ10年で、飛躍的な進歩を遂げた。しかし、既存の治療法の効果は患者によって異なり、治療が十分に効かない場合もある。これは、病気の原因となっている遺伝因子・環境因子の組み合わせが、患者個人によって異なるためだという。

今回明らかになった遺伝子を狙って抑えることによって、日本人にふさわしい、副作用の少ない、より効果的な治療法の開発へつなげることが可能になると研究グループはコメント。また、複数の遺伝因子や環境因子を組み合わせて解析することによって、患者個人の病態に即した治療法の選択手法の開発が加速することが期待できるとも述べている。