東北大学(東北大)の研究グループは、慢性の消化器症状を持つ子供の脳幹機能の特徴を見出したことを発表した。同成果は、同大大学院医学系研究科・行動医学分野の福土審 教授、同環境保健医学分野の佐藤洋 名誉教授、同発達環境医学分野の仲井邦彦 教授らによるもので、電子ジャーナル誌「PLoS One」に掲載された。

過敏性腸症候群は脳腸相関の異常を呈する消化器疾患で、成人の過敏性腸症候群では、内臓刺激ならびに音刺激による脳幹反応の増強が報告されている。この過敏性腸症候群は発達期から生じるため、その源流に注目が集まっているものの、これまで小児を対象とした脳の研究は行われてこなかった。

福土教授らの研究グループは、これまでも過敏性腸症候群の原因追求を行ってきており、今回、佐藤名誉教授および仲井教授らが行ってきた、出生後の子供の健康状態を追跡する研究との共同研究を実施し、慢性の消化器症状を認める小児は脳幹反応が増強している、という仮説の検証と、慢性の消化器症状を認める小児における養育の影響の調査を行った。

具体的な方法としては、生後84カ月の小児141例を対象(男児73例、女児68例)に、子供の身体症状を判定する調査票を母親から得て、子供の過敏性腸症候群様の消化器症状(腹痛・腹部膨満感・下痢・便秘)の有無を判定した。また、両親から子供への養育態度を定量評価したほか、対象児には国際10-20法により脳波電極を装着し、ヘッドホンで音刺激を1000回2度与え、電位を加算して、聴性脳幹反応を測定した。

この結果、消化器症状を持つ児童は、聴性脳幹反応のIII波の出現時間(潜時)が有意に健常児よりも短縮していることが確認された。男女別に見ると、これは女児で見られ、男児では顕著ではなかったという。全対象を分析したところ、消化器症状の程度と聴性脳幹反応の出現時間には弱いが有意な逆相関が見られ、消化器症状が重いほど、聴性脳幹反応の出現時間は短いものであることが確認されたほか、健常児と比較して、消化器症状を持つ児童は、母親からのケアが少なく、過保護が多いことも判明したという。

聴性脳幹反応。健常児よりも消化器症状を持つ児童のIII波の出現時間(潜時)が短い

これらの成果からは研究グループでは、慢性の消化器症状を認める小児は、脳幹反応が増強しているという仮説を支持。すでに福土教授らのグループでは、成人の過敏性腸症候群患者で内臓刺激に対する脳幹反応が増強している所見を得ていたが、今回の調査によりこうした脳幹反応の変化は7歳で既に生じており、その変化には性差があると考えられるようになったという。また、小児の神経の発達には、親の養育が影響することが知られているが、過敏性腸症候群の病像にも母親の養育パターンの影響が認められたことから、発達早期からの過敏性腸症候群予防の方策が示唆されるとしている。

聴性脳幹反応のIII波の出現時間(潜時)。健常児よりも消化器症状を持つ児童のIII波の出現時間(潜時)が有意に短い

母親のケア。健常児よりも消化器症状を持つ児童の母親のケアが有意に少ない

母親の過保護。健常児よりも消化器症状を持つ児童の母親の過保護が有意に多い