東京大学アイソトープ総合センターは、2012年2月19日から4月14日までの間、東北6県、関東1都6県および静岡県の一般市民が日常生活で着用したマスクに付着した放射能量と花粉量の調査を実施し、2月19日から25日までの1週間に福島県および東京都の一般市民(それぞれ10名ずつ)が日常生活で着用したマスクの測定を行ったところ、一部のマスクに微量の放射性セシウムが付着していることが確認され、最大の数量は福島県におけるセシウム134(134Cs)と137(137Cs)の合算で4.3ベクレル(Bq)だったと発表した。
今回の調査は、東京環境アレルギー研究所およびユニ・チャームの協力を得て、東京大学アイソトープ総合センターの桧垣正吾助教らが行っているもの。東京環境アレルギー研究所はマスクに捕集された花粉量の測定を、ユニ・チャームは「超立体マスク かぜ・花粉用」の提供を行っている。
桧垣助教は、2011年11月30日の日本放射線安全管理学会で、放射性物質に対して花粉用マスクには防護効果があることを報告した人物だ。今回、ユニ・チャームが提供している「超立体マスク かぜ・花粉用」のマスクの花粉に対するフィルター効果は、スギ花粉の粒径が約30μmなのに対し、粒径3μmのものに対してまでバリア性があり、ウイルス遮断効率テストにてVFE95%以上としている(ユニ・チャーム調べ)。よって、スギ花粉にセシウムが付着しているとしても、マスクでかなりの数を防げるというわけだ。
そして福島県と東京都の居住地域の内訳は、福島県が福島市が4名、いわき市が3名、郡山市が2名、伊達市が1名。東京都は練馬区、葛飾区、町田市が2名ずつ。新宿区、杉並区、江戸川区、八王子市が1名ずつとなっている。東京ホットスポットといわれる葛飾区とそれに継ぐ江戸川区も調査対象に入った形だ。
そして、放射能測定はGe半導体検出器(非破壊分析)が用いられた(花粉量測定はフィルターに回収後に計数)。各人が着用したマスク1週間分をまとめて6時間かけて測定。検出器の検出加減は、134Csも137Csも共に0.2Bqだ。
なお、放射能は原子核が崩壊して放射線を出す能力のことを指し、1Bqは1秒間に1個の原子核が崩壊することを意味する。そしてシーベルト(Sv)は、人体が吸収した放射線の影響度を数値化したものだ。
原発事故などがない限りは、人は年間に世界平均で2.4mSv=2400μSv、日本平均で1.5mSvを浴びているとされており、短時間における被爆でも0.2Sv(200mSv)以下なら、急性の問題は生じないとされているが、長期的な被爆はまだわかっていない部分も多い。
花粉量測定は、正面の最も広い部分をA、ほおと接する両脇がB,鼻と接する上部のすき間の辺りがC、耳にかける部分をDとし、A、B、Cをそれぞれ別個に分けて集塵が行われた。花粉はそれらから吸引による方法(X)と、袋内で流水で洗浄して濾過しての方法(Y)の2通りで回収され、それぞれ染色して鏡検して計数し、XとYの合計としている。
放射能測定結果は、まず約30年の半減期を持つ137Csは、福島県では8名から検出し、その8名の内の5名からは半減期約2年の134Csも検出。東京都は1名から134Csと共に検出された。
そして、放射能が最大だった数値は、福島県の方の場合は、134Csが1.73Bq、137Csが2.52Bqで、合計4.3Bq。東京都の方の場合は、134Csが0.22Bq、137Csが0.38Bqで、0.60Bqだ。
放射性セシウムによる内部被曝線量の推定は、福島県の最大数値を基にして、吸入摂取してすべてを人体が吸収したと仮定した場合、1.73BqのCs134は、実効線量計数(μSv/Bq)が1.3×10-2、よって実効線量は0.022μSv。2.52Bqの137Csは、実効線量計数が2.4×10-2、よって実効線量は0.060μSv。1週間の合計は0.082μSvという計算結果となっている。よって、マスクをつけていないと即健康を害するという数値ではない。
また、福島県で134Csと137Cs両方が検出された5名の方の平均値と中央値(代表値の1種で、数値を小さい順に並べた時に中央に位置する値)も発表された。平均値は、134Csが0.92Bq、137Csが1.26Bqで、合計2.2Bq。中央値は134Csが0.63Bq、137Csが0.83Bqで、合計1.5Bqだ。
1週間の花粉量は、福島県の放射能の最大値の方が累計190個、中央値の方は616個だった。東京都は検出されなかった方が使用していたものが発表されており、424個となっている。
今回検出された放射性セシウムは花粉由来か否か、という疑問点に対しては、(1)マスク上での放射能の平面分布の観察、(2)放射能がある部分に花粉があるかどうか、(3)計数のための集塵したフィルターを再度放射能測定、(4)集塵後のマスクを再度放射能測定、(5)集塵後のマスクを再度顕微鏡で観察といったチェックを行った結果、「花粉由来が主ではない」という結論となった。
今後の計画は、調査を継続し、期間すべてのマスクに関して付着した放射能量と花粉量の測定を実施するとしている。最終的な結果の公表時期は、現在検討中ということだ。