金沢医科大学は、真空状態を保つことが必要なために従来は生体試料の観察が不可能とされてきた電子顕微鏡において、「キチマダニ」が真空に耐性があることを見つけ出して生きたまま観察し、その個体の運動をとらえることに成功したと発表した。

成果は、金沢医科大学総合医学研究所の石垣靖人准教授、中村有香研究員、中川秀昭教授、友杉直久教授、竹上勉教授、同医学部医動物学の及川陽三郎講師、同電顕室の竹原照明技術員および福井大学、大阪大学の研究者らとの共同研究グループによるもの。詳細な研究内容は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に3月14日付けで掲載された。

電子顕微鏡で生きたままの生体試料の観察が不可能と考えられてきた理由は、電子線を利用する電子顕微鏡観察では試料を真空状態に保つ必要があるからだ。

しかし、生きた状態に近い、あるいは生きたままの観察が可能になれば、光学顕微鏡では観察できない「超微細な」生体の動きを見ることが可能になるという大きな成果を上げられる。

そこで、研究グループは真空に耐えうる生物を探索することにより、この難題を突破することを試みた次第だ。

さまざまな処理条件や生物種を検討していく中で、キチマダニ(学名:Haemaphysalis flava (H. flava))が真空に耐性であることを発見。このキチマダニを走査型電子顕微鏡内に導入して観察したところ、生きたままの生物の個体の運動を電子顕微鏡内でとらえることに初めて成功した。

この成果は従来の試料作製法に大きなインパクトを与えるとともに、電子顕微鏡観察が静止画から動画へと転換する節目を刻むことになると研究グループはいう。今後は、生きたままの細胞の観察や生体内分子反応の解析へ研究を発展させていきたいと考えているともコメントしている。