京都大学(京大)は、農作物の害虫として知られる体長0.5mmのハダニ類が、通常、動物はエサや棲み場所を巡る争いが仲間内で激しくなるというデメリットが大きくなるため、よほどのメリットがない限りは作らないはずの群れを、天敵に対して共同で身を守るために作ることを解明したと発表した。成果は京大農学研究科の矢野修一助教によるもので、論文はドイツの行動学専門誌「Behavioral Ecology and Sociobiology」電子版に2月18日に掲載された。

サバンナで草食獣と肉食獣が命がけの攻防を繰り広げるように、葉の上では植物を加害する害虫と、それをエサにする天敵との攻防が見られる。農作物の害虫として知られるハダニ類は、葉面に薄い網を造り、葉面と網の間に群れて葉の汁を吸って生息している。

冒頭で述べたように、通常、動物はエサや棲み場所を巡る争いが仲間内で激しくなるため、あまり群れを作らないのだが、ハダニ類は葉の表面で群れて生息している。その理由が天敵に対して共同で身を守るためなのであるという。

ハダニの網は大部分の天敵が侵入できない安全地帯だが、エサの葉が劣化して居場所を移すたびにハダニは網を新築せねばならず、網が完成するまでにコウズケカブリダニなどの天敵に攻撃される。この時、群れが大きいほど犠牲になるハダニの割合が小さい。これは天敵が1匹目のハダニを平らげる間に網が完成して、2匹目に手が出せなくなるからである。

また、単独で網を新築せねばならないハダニは、すでに他個体が新築した網を見つけると、すかさず駆け込んで網にタダ乗りする。一方の、苦労して網を作った先住個体は、間借りする新参個体を追い出さずに仲良く暮らす。これは先住個体にとっても、新参個体と協力して天敵から身を守る方が得策だからだ。

さらに驚くべきは、この協力関係は同一のハダニだけでなく、ナミハダニとカンザワハダニといった別種のハダニ類の間でも見られる点である(画像)。共通の天敵に対して別種が協力する行動は、同種内の協力行動から発達したようだが、ハダニが同種の交尾相手を識別できることを考えると、別種だと知りながら打算的に協力している可能性が高い。人の世では異質な者同士が状況に応じて手を組むことは簡単ではないが、生死をかけたダニの世界では当たり前の行動のようである。

寄り添って暮らすカンザワハダニ(1)とナミハダニ(2)、その隙をうかがう天敵のコウズケカブリダニ(3)。2匹のハダニの周囲は網(右写真)に守られている