京都大学は、相手の状況に合わせてチンパンジーは手助け行動(利他行動)を行える能力を持つと発表した。研究は京都大学霊長類研究所の山本真也特定助教らの研究グループによるもので、成果は米科学アカデミー紀要電子版に掲載された。

チンパンジーは相手が何を必要としているかを理解し、それにあわせて利他行動を柔軟に変化させるのかという疑問のもとに、今回の研究では利他行動の文脈におけるチンパンジーの他者理解について、より詳細な検討が行われた。

実験は、隣接する2つのブースの内、片方には道具使用場面(ステッキ使用場面あるいはストロー使用場面)を設定し、もう片方にはステッキ・ストローを含む七つの道具を与えた。ブース間パネルが透明な条件(「見える」条件)と不透明な条件(「見えない」条件)を48試行ずつ交互に行ったところ、どちらの条件でも道具使用場面の個体が穴から手を伸ばして道具を要求する行動が見られた次第だ。

しかし、渡し手の道具選択には2条件間に違いが見られ、「見える」条件では相手の状況にあわせて渡す道具の割合を有意に変化させていたのに対し、「見えない」条件ではそのような適切な道具選択ができなかった。5個体中1個体は「見えない」条件でも適切な道具を選択できていたが、この個体は道具を渡す前に穴から相手ブースを覗き見したあとに道具を選択して渡していたのである。

これらの結果から、チンパンジーが相手の置かれている状況を見て相手の欲求を理解し、それに応じて利他行動を柔軟に変化させていることが示された。同時に、相手の状況を理解していても、自発的には手助けしないことも示唆される。こうした結果を受けて、研究グループでは、チンパンジーの利他行動の生起には状況の理解と要求の理解が別々かつ相補的に働いている可能性が考えられると、コメントしている。

実験のイメージ。見える状況では、1回目も2回目も、見えない状況に対して、明らかに的確な道具を渡しているのがわかる