北海道大学(北大)は、慢性骨髄性白血病細胞の新たな細胞増殖、腫瘍形成メカニズムを解明したと発表した。研究成果は、がん分野の雑誌として知られる「Oncogene」に1月9日に掲載された。

細胞の増殖分化は種々の信号分子の緻密な相互作用のもとに成り立っており、そのメカニズムの異常は、細胞のがん化につながることが知られている。血液がんである「慢性骨髄性白血病」(Chronic myelogenous leukemia:CML)では、遺伝子の変化による異常な白血病細胞の増殖によって病気が起こる。この病気の原因は、第9番と第22番染色体の相互転座t(9;22)により生じた「フィラデルフィア」(Ph)染色体にある。

Ph染色体上で、もともと9番染色体長腕上に存在した「ABL」遺伝子が、22番染色体上の「BCR」遺伝子の下流に連結されて「BCR-ABL」融合遺伝子が形成され、CML細胞に特異的な「BCR-ABL」融合タンパク質が作られてしまう。

そして、BCR-ABL融合タンパク質は、恒常的に強い「チロシンキナーゼ酵素活性」を有し、白血病細胞の増殖を促進するとともに、白血病細胞のアポトーシスと呼ばれる細胞死にも抑制的に働く仕組みを持つ。

CML患者に対する抗がん剤としてBCR-ABLチロシンキナーゼ酵素活性阻害剤「イマチニブ」が知られているが、イマチニブ治療を少なくとも2年間以上継続できた患者においても、イマチニブの服用を中止後1年以内に約60%の確率で再発が認められることが報告されており、より有効な抗がん剤の開発が待たれているという状況だ。

研究グループでは、細胞内シグナル伝達においてキナーゼなどの酵素群や転写因子の活性化を制御するアダプター分子の1つである「STAP-2」の働きについての研究を行ってきたが、今回の研究ではシグナル伝達系において重要なSTAP-2タンパク質がCMLの本体であるBCR-ABL融合タンパク質と相互作用し、CML細胞においてどのように働くかの検討を行った。

そして、STAP-2タンパク質の働きを証明するため、STAP-2タンパク質と相互作用するタンパク質の遺伝子を網羅的に解析した結果、STAP-2タンパク質とBCR-ABL融合タンパク質が相互作用することが判明。続いて、STAP-2タンパク質がBCR-ABL融合タンパク質にどのように働くかが検討された。

BCR-ABL融合タンパク質を発現したマウスプロB細胞株では自律的な細胞増殖能が認められ、免疫不全マウスへの皮下移植により腫瘍形成が観察されるが、このBCR-ABL発現細胞にSTAP-2タンパク質を追加して発現させることによって、細胞増殖能の増強や免疫不全マウスでの腫瘍形成の促進が観察された。

また、このようなSTAP-2タンパク質を発現させた細胞ではBCR-ABL融合タンパク質の恒常的活性化が亢進し、その下流の標的遺伝子発現などが増強されることも確認。さらに、ヒト慢性骨髄性白血病株「K562」でSTAP-2遺伝子発現を低下させることにより、腫瘍形成が阻害されることも判明した。つまり、BCR-ABLとSTAP-2の結合を阻害することで、白血病化を抑制できる可能性があるということだ。

研究グループでは、以上の結果から、STAP-2タンパク質はCML患者のための新しい抗がん剤開発の重要な標的であり、さらにSTAP-2発現が個々のCML患者の予後因子となり得るとしている。また、STAP-2タンパク質を標的とした分子標的治療薬は既存のCML治療薬との併用により、CML治癒を目指す有力な武器になり得るともコメントしている。

CMLが発生する仕組み。STAP-2が、CMLを引き起こすBCR-ABL融合タンパク質と結合しないように阻害しないようにできれば、新しい抗がん剤となる可能性がある