北海道大学(北大)は、過剰な免疫反応や細胞増殖を抑える働きを持つタンパク質「Cbl-b」の活性型および不活性型分子の3次元構造をNMR(核磁気共鳴)により解明したこと、および真核細胞に普遍的に保存された細胞内分解系で、タンパク質凝集体や異常なミトコンドリア、細胞内に進入した病原性細菌などを分解することで、細胞の恒常性維持に働いているオートファジーの固有活性化酵素などの構造をX線結晶解析法およびNMR法にて解析したことを発表した。

これらの成果は、前者が同大の小橋川敬博氏、富高彰氏、久米田博之氏、野田展生氏(現 微生物化学研究所)、山口雅也氏、稲垣冬彦氏らによるもので、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences):PNAS」に掲載された。また後者は同大の野田展生氏(現 微生物化学研究所)、佐藤健次氏、藤岡優子氏(現 微生物化学研究所)、久米田博之氏、小椋賢治氏、中戸川仁氏(東京工業大学)、大隅良典氏(東京工業大学)、稲垣冬彦氏らによるもので、米学術誌「Molecular Cell」に掲載された。

Cbl-bは外部からのシグナルに応じて活性化され、免疫反応や細胞増殖にかかわるタンパク質にユビキチンという目印のタンパク質を付け分解できるようにするが、遺伝子の異常によりCbl-bが活性化されなくなると、タンパク質分解に異常が生じ、I型糖尿病などの自己免疫疾患やがんを引き起こすことが知られている。

今回、研究チームは、NMR法を用いることでCbl-bの活性型および不活性型分子の3次元構造を解明。これにより、不活性型のCbl-bではユビキチン化に直接関わる領域が分子内の他の領域により覆われ、機能しない状態になっていること、ならびに活性型ではその領域が露出することで機能する状態になっていることを明らかにした。

この成果から、今後は、自己免疫疾患に対する薬や新しいメカニズムに基づく抗がん剤、がんを起こしにくい免疫抑制剤の開発が期待されるという。

一方、細胞の飢餓応答として知られるオートファジーの進行にはユビキチン様タンパク質であるAtg8が必須の役割を担っているが、その活性化は固有活性化酵素であるAtg7が行っており、最近の研究により、神経変性疾患やがん化の予防など、多彩な生理的機能を果たしていることが確認されるようになってきている。

今回の研究ではAtg7およびAtg8よの複合体の3次元構造をX線結晶構造解析およびNMRを用いて決定した。これにより、結合酵素であるAtg3への受け渡しは、ユビキチン系では見られなかった独自の機構で行われていることが明らかとなり、この結果、今後、神経変性疾患などの原因となる神経細胞内のタンパク質凝集体を分解する薬剤の開発が進むことが期待できると研究チームでは説明している。