千葉大学、東京大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで構成される研究グループは12月22日、KEK放射光科学研究施設フォトンファクトリーを用いた結晶構造解析によって、ホランダイト型酸化物(K2Cr8O16)が強磁性を保ったまま金属から絶縁体に転移する仕組みを明らかにした。同成果は、千葉大学大学院・理学研究科の太田幸則 教授、同融合科学研究科の小西健久 准教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所・構造物性研究センター(CMRC)の中尾裕則 准教授、同 中尾朗子 助教(現 総合科学研究機構)、および東京大学・物性研究所の上田寛 教授、同 礒部正彦 博士らによるもので、米国科学誌「Physical Review Letters」の2011年12月23日号(米国時間)に掲載される予定。

ホランダイト型酸化物は、ナノサイズのトンネル構造を持つため、この構造を利用した機能性材料として、近年注目されている物質である。また、同物質は価数の違うイオンが混在していること、結晶構造は低次元性であること、電気伝導性や磁気的フラストレーションが存在することから、多様な物性を示す可能性があり、物性研究の観点からも関心が持たれるようになってきている。

これまで、研究グループでは、K2Cr8O16が強磁性を保ったまま金属から絶縁体に転移することを見出していたが、その起源は未解明であった。ホランダイト型酸化物のような強相関電子系では、強磁性と金属性は密接な関係があり、強磁性の絶縁体は非常に希な物理的性質であるため、その発現機構の解明が期待されていた。

今回の研究では、強磁性金属・絶縁体転移を示すホランダイト型酸化物であるK2Cr8O16について、KEK放射光科学研究施設フォトンファクトリーBL-8を用いて強磁性絶縁体相の精密な結晶構造を調べた。その結果、低温絶縁体相で一次元的なトンネルを構成する4つのCr-O-Cr鎖の構造変化が見出された。実験的に得られた結合距離の異なるCr-Oは、一次元方向に交互に配列(結合交替)し、クロムが4量体を形成していることが分かった。

実験的に得られた結合距離の異なるCr-Oが、一次元方向に交互に配列(結合交替)し、クロムが4量体を形成していることが分かった。なお、4量体は同種の4つの単量体が物理・化学的な力によってまとまることを意味している。また、一次元的に等間隔に並んだ格子点は、隣接するサイトの電子から受ける斥力(反発力)が増大することで不安定になり、エネルギーを得るために格子点の配置はペアをつくり安定化を図る動きにおける電子-格子系の不安定性をパイエルス不安定性といい、パイエルス不安定性のために格子歪みが起こることをパイエルス転移と呼び、その仕組みをパイエルス機構と呼ぶ

さらに、結晶構造結果を用いたバンド計算から、K2Cr8O16はパイエルス不安定性を持つことを発見した。また、強磁性絶縁体相では、クロム3価(3d3):クロム4価(3d2)=1:3に対応して、4量体化したクロムが余りの1電子を共有してパイエルス転移が生じ絶縁化しているメカニズムも明らかとなった。

この結果、通常のパイエルス機構では結晶格子を歪めて結合交替が起こるとともにスピンはシングレットと呼ばれるスピンの向きが反対の対を形成するが、同物質は、スピンの向きがすべて揃っている状態(完全分極)の強磁性体が、スピンの向きを保ったままパイエルス転移する、すなわちスピン自由度のないパイエルス転移という特異な例であることがわかった。

今回の結果を受けて研究グループでは、今後、新しい物性を示す磁性や伝導性が複雑に絡み合った物質の開発へ発展することが期待されるとしている。