理化学研究所(理研)は、2型糖尿病の発症に関わる遺伝子領域同定を目的とした国際共同プロジェクト「2型糖尿病アジア遺伝疫学ネットワークコンソーシアム(AGEN-T2D)」に参加し、東アジア人の2型糖尿病の発症に関わる8つの新たな遺伝子領域を発見したと発表した。

同コンソーシアムには、東アジアの14のゲノム研究室が参加し、日本からは文部科学省「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(第2期)」実施機関である東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授と理研ゲノム医科学研究センター内分泌・代謝疾患研究チームの前田士郎チームリーダーらが主な研究者として参加している。今回の研究成果は、米科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に日本時間12月12日に掲載された。

現在糖尿病患者数は、全世界で3億人を超え、2030年には5億人に達するとされている(国際糖尿病連合「糖尿病アトラス第5版」2011)。糖尿病患者の内で、およそ9割を占めているのが、2型糖尿病だ。

2型糖尿病の発症には遺伝的要因が関与しており、現在までに約50の関連遺伝子領域が見つかっているが、多くは欧米人を対象とした解析で発見されたものである。欧米人の糖尿病患者には肥満の関与が大きいのに対して、日本人をはじめとした東アジア人の糖尿病患者では肥満の程度は軽いことが知られており、人種によって糖尿病を引き起こす仕組みが異なっていると考えられている。

欧米人の糖尿病では、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが十分に働かない「インスリン抵抗性」がより顕著だが、東アジア人の糖尿病の場合は、インスリンの分泌が悪くなる「インスリン分泌低下」がより顕著だ。東アジア人では、肥満の程度が軽くても2型糖尿病を発症することから、欧米人と比べ2型糖尿病を発症しやすい体質を持っていると考えられている。

したがって、欧米人と東アジア人では関わる遺伝的要因にも違いがある可能性がある。事実、欧米人対象の解析で見つかった遺伝子領域の中には、日本人の2型糖尿病との関連が見られないものが存在していることが確認済みだ。

日本人を対象とした解析では、2003年から行われている文部科学省リーディングプロジェクト「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」の研究成果から3領域が同定されているが、東アジア人と欧米人の違いを明らかにする要因はほとんど知られていないのが現状である。

研究グループは、まずコンソーシアムで行われた東アジア人での8つのグループのゲノムワイド関連解析(GWAS)(合計18,817人)の結果を統合し、ヒトゲノム全体に分布する約250万個の「一塩基多型」(SNP)について2型糖尿病の発症と関連する遺伝子領域の探索を行った。

一塩基多型(SNP:スニップ)とは、全DAN情報(ヒトゲノム)を構成する30億におよぶ文字の並び(塩基配列)の内、0.1%程度の個人差(遺伝子多型)のことを指す。多くの遺伝子多型は違っていても影響はないが、一部は病気のなりやすさなどに関係していると考えられている。

そうしたSNPの中から、今までに2型糖尿病との関連が知られていない有力な297領域を選び、別の3つのグループのGWAS(合計10,417人)で2型糖尿病との関連について検証した。その結果絞り込まれた19領域について、さらに別の5つの集団(合計25,456人)で検証した結果、2型糖尿病の発症に関わる8つの新たな遺伝子領域が同定されたという(画像1・2)。

画像1。研究概要

画像2。新たに同定された8つの2型糖尿病関連遺伝子領域。2型糖尿病集団と対照集団でSNPの遺伝子型頻度に差があるかどうかを統計学的に比較し、検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが起こる確率、低いほど関連が強いと判定できる)がゲノムワイドレベルで有意となった領域(P<5×10-8)が8つ同定された

この8つの遺伝子領域について欧米人47,117人を対象に2型糖尿病との関連について調べたところ、3つは関連が見られたが、5つははっきりした関連は認められず、東アジア人に特有の2型糖尿病関連遺伝子領域である可能性が考えられたというわけだ。

研究グループは、今回発見した8つの遺伝子領域がどのようにして2型糖尿病発症に関わるか、そのメカニズムを解明することで、糖尿病に対する新しい治療薬の開発に貢献できる可能性があるとする。また、今回の成果と、今までに発見された糖尿病に関連する遺伝子多型を組み合わせることで、糖尿病になりやすい人を予測し、積極的な予防対策を講じることによって、糖尿病予防のための生活指導などが可能になってくるものと期待できるともコメントしている。