グーグルは11月29日、米Googleがサービス横断的に展開している取り組み「Data Liberation(データ解放)」に関する説明会を開催した。米Googleのシカゴオフィスから同プロジェクトを主導するBrian W.Fitzpatrick氏が来日し、概要を紹介した。

米GoogleのシカゴオフィスでEngineering Managerを務めるBrian W.Fitzpatrick氏

Data Liberationは、Googleのさまざまなサービスにおいてユーザーのデータをエクスポートできる環境を整えようという取り組み。ここで言う"ユーザーのデータ"とは、メールやチャット、SNSなどでやりとりされる送受信データや友人の連絡先データ、さらには写真やドキュメントなど、オンラインストレージサービスにアップロードしたデータなどを指す。

Fitzpatrick氏は、こうした取り組みに着手した背景を説明するにあたって、「大学卒業時に学校から与えられたメールアカウントのデータをコピーしようとしたら、その手段がなかった」というエピソードを紹介。不動産物件の例を出しながら、「賃貸の家を引っ越そうというときに、居住者が購入した家具や衣類を持ち出せなかったとしたら、だれもがおかしいと思うはず」と説明したうえで、「データは本来ユーザーのものであるにもかかわらず、それを持ち出す手段がないというのは考えられない」とコメントし、ユーザーに不幸な思いをさせないための活動であることを明かした。

もっとも、すでに大量のユーザーを抱えるGoogleの各種サービスにおいて、データをエクスポートする機能を提供するというのは、他サービスへのユーザー流出リスクが高まるだけのように思える。この点に関して、Fitzpatrick氏は次のように説明する。

「たしかにデータを取り出せる機能を用意しなければ、ユーザーをロックインすることができる。しかし、ユーザーをロックインするような環境ができてしまうと、開発する側が怠慢になり、改善速度が遅くなる傾向がある。それに対して、データを取り出せる機能を提供し、サービスを自由に選べる環境になっていると、開発者は他よりも魅力的なサービスを作ろうと常に努力するようになり、それが競争力につながってくる。決して道徳的な観点からこのような取り組みをしているわけではない」

Fitzpatrick氏は、Data Liberationの取り組みにおける基本原則として、「ユーザーのデータをオープンで、相互互換性のあるかたちで取り出せるようにすること」、「追加費用が発生することなく、ユーザーのデータを取り出せるようにすること」、「ユーザーのデータを取り出すのに時間がかからないこと」の3点を挙げる。

そして、特に最近力を入れている項目として3つ目の「時間がかからない」点を強調し、「以前から、BloggerやGoogle Docsをはじめとするいくつかのサービスで簡単にエクスポートできる機能を提供してきたが、Googleでは多くのサービスを提供しており、複数のサービスを利用しているユーザーがすべてのデータを取り出すには結局、煩わしい思いをすることになっていた」と振り返ったうえで、今年6月に「Google Takeout」というサービスをリリースしたことを紹介。同サービスを利用することで、Googleのさまざまなサービスのデータを一括してエクスポートすることができるようになったことを明かした。

Bloggerのエクスポート機能。エクスポートのほかに削除機能も設けられている

Google Docsのエクスポート機能。データフォーマットを選んでエクスポートできる

Google Takeoutは現在、Google BuzzやPicasa Web Albums、Google+ Streamなど、対応サービスが限られているが、今後順次対応を拡大していく予定という。

Google Takeoutの画面

Fitzpatrick氏は最後に、「Data Liberationでは機能拡充に努めているが、何よりも重要なのはユーザーの皆さんにデータの大切さを認識してもらうこと」と説明。「思い出の写真がぎっしりと詰まった箱が、ある日突然、空箱同様の存在になってしまうこともある」と表現し、データを取り出す機能がなければ、すべてが無に帰する可能性があることを示唆したうえで、今後、Google以外の会社との連携も含めて活動を強化していくことを約束した。