東京工業大学(東工大)大学院理工学研究科の松澤昭教授と岡田健一准教授らの研究グループは、16Gbps伝送が可能な60GHzミリ波無線機を開発したことを発表した。同成果は「A-SSCC (アジア固体回路国際会議)」にて発表された。

現在、公衆向け無線通信機器には、6GHz以下の周波数が利用されており、それぞれの無線通信規格で利用できる周波数帯域はごく限られたものとなっている。そのため、実用化されている中で一番高速な無線LAN規格であるIEEE802.11nでも40MHzの周波数帯域しか利用できず、伝送速度も長くて300Mbps程度。無線伝送速度は周波数帯域で制限されるため、このような逼迫した6GHz以下の周波数を利用する限り、大幅な速度向上は期待できないのが現状である。

60GHz帯における周波数割り当て

そうした中、60GHz帯を用いるミリ波無線通信の利用に注目が集まるようになってきている。60GHzでは最大9GHz近い帯域の利用が可能であり、これによる通信速度の向上が期待できる。60GHz帯にはすでに2.16GHz帯域が4 チャネル確保されており、通常用いられるQPSK変調では1チャネルあたり3.5Gbps、より高度な16QAM変調では1 チャネルあたり7Gbpsの無線伝送が可能である。4チャネル同時に利用すれば28Gbpsの無線伝送が可能で、ミリ波帯で16QAM変調が可能になれば、大幅な無線通信速度の向上が実現できるという。

開発したダイレクトコンバージョン無線機(容量クロスカップル技術を用いることによりダイレクトコンバージョン無線機の利得平坦性を改善)

これまでに報告されているミリ波帯無線機の多くは、ヘテロダイン型のものであり、一度に周波数変換を行うため、回路が簡単にでき、小面積化・低消費電力化が可能なダイレクトコンバージョン型での実現が望まれている。一方で、個々の回路への性能要求が厳しくなるため、これまでにミリ波帯で16QAM変調が可能なダイレクトコンバージョン無線機は報告されていない。

チップ写真(65nm CMOSプロセスにより製造。送信機部分の面積が2.5mm2、受信機部分の面積が2.3mm2、20GHz帯PLLのチップ面積は1.2mm2)

ミリ波を用いるWirelessHD規格向けチップがあるが、こちらもヘテロダイン型であり、2W近い消費電力が必要であった。同研究グループではすでに、16QAM変調が可能なダイレクトコンバージョン型無線機を実現しており、通信速度の向上と低消費電力化を実現しているが、さらなる無線性能向上のためには、利得特性の平坦性が課題であった。

変復調特性(60GHz帯無線通信規格で規定される2.16GHz 帯域を用いて、最高の7.04Gbps(16QAM)、3.52Gbps(QPSK)の伝送速度を実現。規格で決まった2.16GHz以上の帯域を用いれば、最大で10Gbps(QPSK 変調)、16Gbps(16QAM変調)まで伝送可能)

今回の開発では、容量クロスカップル技術により、利得の平坦性を向上させることで、従来より9dBの改善を実現。これにより従来11Gbps程度の通信速度が限界であったものを16Gbpsまで向上させたという。小型・低消費電力でも7Gbps超の無線通信が可能であり、携帯電話などへの搭載が期待できるという。

性能諸元

従来報告のあったミリ波帯無線機の比較