東京工業大学(東工大)大学院総合理工学研究科の沖野晃俊准教授と同大学発ベンチャーのプラズマファクトリーは、プラズマのガス温度を-90℃の低温から+150℃の高温まで、±1℃以内で精密にコントロールできる大気圧プラズマ装置「温度制御プラズマ」を開発したことを発表した。同成果は、応用物理学会プラズマエレクトロニクス分科会・設立20周年特別シンポジウムにて発表された。

プラズマは、半導体製造や表面処理などの分野で広く使用されており、エレクトロニクスの発展には欠かせない技術となっているが、プラズマ化したいガスを放電させて生成するため、ガスの温度は放電前よりも必ず高くなる。

従来のプラズマ装置では、温度制御はほぼ行われていないか、高温化を避けたい場合には放電電力を抑さえることで調整しており、制御しつつ温度を上げることも難しかった。今回開発された制御技術はプラズマの温度を放電電力とは独立に制御することで、-90~+150℃の範囲で、±1℃以内の精度で温度制御された大気圧プラズマの供給を実現するというもの。このため、照射対象物の温度制限や、目的とする化学反応に最適な温度のプラズマを生成して利用することが可能となる。

従来のプラズマ装置

具体的には、ボンベから供給されたガスを、液体窒素を用いたガス冷却装置によって-195℃まで冷却したのち、ヒーターによって所望の温度に加熱し、プラズマ化。生成されたプラズマのガス温度をヒーターにフィードバックすることで、プラズマのガス温度を所望の値に制御するというもの。

今回開発された温度制御プラズマ装置

新たに開発されたプラズマ源では、-90~+150℃の範囲で、±1℃以内の精度でのプラズマ生成に成功したという(従来装置の場合、室温22℃で36℃のプラズマが生成された)。

約10秒のプラズマ照射で水が氷る

室温から100℃程度の、手でも触れられるいわゆる「大気圧低温プラズマ」は、真空容器を必要としないため、連続的な処理が可能なほか、従来の低気圧プラズマよりも高密度のプラズマを生成でき、かつ真空容器には入れられなかった生体や大型物体の処理も可能であるため、工程の高速化、コスト低減、処理対象範囲の拡大などが期待される。特に、ここ数年、室温から100℃程度の低温の大気圧プラズマの生成が可能となったため、大気圧プラズマの産業応用が進んでいる。

生成されるプラズマの温度の比較

今回開発された装置を用いることで、照射対象による温度の制約を受けず、また、処理に最適な温度のプラズマを生成できるようになるため、従来装置では扱う事が難しかった生体や低融点材料へのプラズマ照射が実現できるようになるほか、金属酸化膜の還元処理など、比較的高温のプラズマが適する処理においても威力を発揮することとなる。

また、近年、医療分野においても大気圧プラズマの応用が注目されており、傷口の直接殺菌、血液凝固の促進、細胞の活性化など幅広い研究が行われていることから、、照射部位の温度がタンパク質の変性温度である43℃を長時間超えずに、照射が可能となる同装置の活用により、医療や美容分野へのプラズマの応用の扉を開くことが期待できると研究グループでは説明している。

なお、研究グループでは、同温度制御法と、同大沖野研究室が開発した、ほとんどすべてのガスで大気圧プラズマを生成できる「マルチガスプラズマ」および処理対象に放電損傷を与えない「ダメージフリープラズマ」などの技術を組み合わせることで、あらゆる物質にあらゆる気体のプラズマを安全に照射することが可能になり、殺菌や表面処理の適用範囲を大幅に広げることが可能になるとも説明している。