早稲田大学(早大)、戸田建設、前田建設工業、ハザマ、太洋基礎工業、マグマの6社は共同で10月13日、地震による液状化防止などに期待できる深層地盤改良工法「AWARD-Demi」(アワード・デミ)の技術開発概要発表会を早稲田大学大隈会館にて開催した(画像1)。

画像1。概要発表会の様子。6社から1~2名が出席し、大所帯の発表会となった。なお、各社は今回の今後の工事案件で積極的にAWARD-Demi工法を計画・提案し、震災に強い国土作りに貢献していくとしている。また、これは6社のみで囲い込む技術ではなく、要望があれば他社での利用にも応え、広めていくとしてた

AWARD-Demiは気泡掘削工法の改良型で、東日本大震災以降、重要性が増している基礎地盤強化を、環境負荷の低減を図りながら実現するもので、「気泡掘削」によるセメントと水を混合させた「セメントスラリー」系の深層地盤改良工法の一種だ。深層地盤改良工法とは、軟弱な地盤に石灰やセメントなどの安定材を混合攪拌し、土を化学的に固結させる地盤改良法である。低振動、低騒音、上載荷重なしで施工後早期に強度を得られ、置換工法のように大量の土砂発生や両湿度を必要としないといった特徴を持つ。

そしてAWARD-Demiは、緩い砂地盤の液状化防止、構造物の基礎地盤強化、掘削法面の安定、山留の変異低減などを主な目的としている(画像2)。改良は、早稲田大学理工学術院の赤城寛一教授を中心に進められた(画像3)。

画像2。AWARD-Demi工法は、緩い砂地盤の液状化防止、構造物の基礎地盤強化、掘削法面の安定、山留の変異低減などを主な目的としている(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より転載)

画像3。AWARD-Demiの解説を行った早稲田大学理工学術院の赤城寛一教授

今回の開発の背景だが、東日本大震災以降は特に、液状化対策などの基礎地盤強化の重要性が増している点がまずある。AWARD-Demiを含めた深層地盤改良工法とは、原位置土にセメントスラリーを攪拌混合することで、比較的安価に所用強度の地盤に改質する確実性の高い工法だ。そのため、基礎地盤分野の工事において、多目的に適用されている。

しかし、地盤掘削時の地盤流動性を確保するために、相当量の加水が必要であるのが課題で、そのために余剰な汚泥量が発生してしまうのが環境負荷およびコストの面で問題となっている。その2点の低減するため、「原位置攪拌ソイルセメント壁工法」(多軸アースオーガー機、チェーンカッター機などにより固化材(セメントミルク)を原位置土と混合攪拌して芯材を所定の位置に建込み、地下連続壁を築造する工法)で実証した気泡掘削による余剰汚泥量削減効果を応用して開発されたのが、今回のAWARD-Demiというわけだ。なお、今回の開発においては、産学共同研究体制の組織化も行われた点がポイントとなっている。

なお気泡掘削工法について説明すると、掘削土に微細な気泡と水を添加した均質な混合土である「気泡混合土」を使用するものだ。起泡剤に水を加えて20倍に希釈し、その20倍希釈起泡液に空気を混ぜて発泡倍率25倍の起泡を発生させる。その気泡を0.5~2%の割合で掘削土に混ぜ、加水して混合攪拌することで気泡混合土が生まれるというわけだ(画像4)。

画像4。気泡掘削工法で利用する気泡混合土と、その生成方法(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

気泡掘削工法の効果の1つは「溝壁安定性」(画像5)。微細な独立気泡が溝壁周辺の原地盤の土粒子間すき間部分に入り込むことで、不透水層を形成するメカニズムである。安定液を投入して、気泡が浸透した後の溝壁内には、内圧がかかる側の気泡安定液の部分と、原地盤の間に「不飽和層」ができあがり、水を通さなくなるというわけだ。

画像5。気泡掘削工法の効果の1つ「溝壁安定性」。左は安定液投入直後で、右が気泡が浸透した後の溝壁内(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

そしてもう1つの効果が「ベアリング効果」(画像6)。摩擦が作用していて流動性が低かった締め固まった土に対して、従来よりも投入する水の割合が少なくても、気泡が土粒子間に入り込むことで粒子間が隔離して摩擦が低減し、より流動性が高まる(掘削しやすくなる)という仕組み。

画像6。気泡掘削工法の効果の1つ「ベアリング効果」。左は何もしていない締め固まった土で、右は安定液を投入して気泡が土粒子間に入り込んだ様子(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

3つ目が「消泡減量化」(画像7)。気泡を消泡させることで、気泡体積分の減量化を図れる。消泡は自然放置または消泡剤の添加によって行う。

画像7。気泡なので、水とは異なって消泡させることで体積を少なくすることができる(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

以上の3つが気泡掘削工法の主な特徴だが、メリットの面からまとめると、「発生泥土量の削減」、「遮水性の高い高品質な連続壁の築造」、「溝壁の安定性および止水性の向上」、「機械負荷低減による掘削性能の向上」、「残土の再利用が可能」、「作業用地の縮小が可能」、「工事費の低減」などがあるというわけだ。

気泡掘削工法はすでに実績があり、等圧式ソイルセメント壁工法「AWARD-Trend」で施工実績11件、柱列式ソイルセメント壁工法「AWARD-Ccw」で1件となっている(画像8・9)。

画像8。気泡掘削工法の1つ、等圧式ソイルセメント壁工法「AWARD-Trend」による工事の様子。施工実績は11件(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

画像9。気泡掘削工法の1つ、柱列式ソイルセメント壁工法「AWARD-Ccw」の工事の様子。施工実績は1件(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

そして、AWARD-Demiの工法の流れだが、まず気泡を吐出しながら地山の中へオーガーを回転しながら挿入(貫入)していく「貫入掘削」を行い、気泡のベアリング効果により地山(気泡混合土」の攪拌混合性を向上させる。攪拌を行うためのプロペラ状に回転する機構「攪拌翼」の引き抜き時には、改良材(消泡剤を添加したセメントスラリー)を添加・攪拌し、気泡を消泡しながら地山とセメントスラリーの混練りを行うことで余剰汚泥量低減を図りながら、改良体を造成していく。

なお、気泡添加により加水量を低減し、余剰汚泥量の発生を抑制できるほか、添加したセメントスラリーが余剰汚泥の一部として流出しないので、単位セメント量を削減する環境配慮型のコストパフォーマンスを実現している。

AWARD-Demiの開発は気泡の消泡試験、大型模型実験(画像10)、そして実機によるフィールド試験施工と段階を踏んで開発が進み、茨城県坂東市のシステム計測第9試験場内で2011年4月21日から22日に行われたフィールド試験では従来工法と比較して数々のメリットが確認された。まず「セメントスラリー量を48%低減できる」こと。セメント量と水セメント比ともに減少した形だ。そして、「余剰汚泥量を33%低減できる」こと。セメント量および余剰汚泥量の低減により、「工事費を20%低減できる」こと。掘削機に作用する回転トルクが小さくなることにより、高速な混合攪拌が可能となり、「施工品質と施工速度が向上する」こと。最後は、「周辺地盤に沈下や水平移動が生じにくい」ことだ。

画像10。AWARD-Demiの開発ステップと、大型模型試験の様子(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

ちなみに、実際のところ、従来の工法とAWARD-Demiでどこが違うのかがわかりにくいかと思う。具体的には施工方法の仕方や状況が変化してくるというわけで、その工程をイメージするとわかりやすい(画像11・12)。

画像11。従来は、攪拌翼の貫入時吐出方式(1)。貫入掘削時は上部からセメントスラリーを吐出攪拌。余剰汚泥にはセメントスラリーが混入している(2)。引き抜き時は、下部から上部へ攪拌翼を引き抜きながら攪拌する。余剰汚泥は増加(3)。施工完了の時点で見てみると、余剰汚泥にもセメントスラリー混入しており、地山改良範囲には、V0/(V0+V1)Cのセメント添加率しか添加されない(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

画像12。AWARD-Demiの場合の工法は、攪拌翼の引き抜き時吐出方式となる(1)。貫入掘削時は、上部から気泡と加水による掘削攪拌を行う。この時点で、改良上部に一時余剰汚泥(地山+気泡+加水)が発生する(2)。引き抜き時は、下部から上部へセメントスラリー+消泡剤を吐出しながら攪拌、消泡し、改良する(3)。施工完了の時点で見てみると、余剰土にはセメントスラリーがほとんど混入しないので、地山改良範囲には、添加したほぼ全量のセメント量が添加される(4)。地山+気泡+加水の余剰土は、消泡して減量後処理される(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

フィールド試験施工では、前述した従来工法とAWARD-Demiと両方を同じフィールドで施工することで、AWARD-Demiの優位性を確認した。施工深度は8m、改良径は1m、施工機械は1軸深層混合処理地盤改良機を使用し、要求品質は一軸圧縮強度50kN/m2以上。試験数量は、従来工法は2本、AWARD-Demiは6本で行った。また、地盤の特性は、上層がローム層で、中層が凝灰質粘土層、下層が細砂層である。10.5mをボーリングした形だ。工事の様子は画像13~16(16は試験施工結果の対比表)。

画像13。試験施工機械。攪拌翼が既にささり、攪拌が行われている

画像14。気泡掘削攪拌開始時の様子。まだ土砂などが混ざっていないので気泡が白い

画像15。杭施工完了時。気泡がだいぶ茶色くなっている

画像16。フィールド試験施工結果(発表資料「気泡掘削による深層地盤改良工法『AWARD-Demi』の概要」より)

試験の結果、水量低減によるセメント量低減が確認され、セメント材料費で25%減、セメントスラリー量を48%減。排出泥量は従来が2.06m3なのに対し、1.39m3と3分の2ほどに低減。改良体コア強度は、従来工法が700kN/m2に対し、それを上回る750kN/m2を達成しており、セメント量75%添加でも改良体強度は同という上を実現した。

AWARD-Demiは各種基礎地盤へ適用できることから、地盤の安定性確保、沈下量低減および側方流動防止などの効果がある。また掘削時の安定確保を目的として、土留めの変異量の低減、土留め壁背面の土の重量や土留め工に近接した地表面荷重などにより、すべり面が商事掘削底面の隆起、土留め壁のはらみ、周辺地盤の沈下が生じる現象である「ヒービング」などの防止、掘削法面のすべり防止および土留めの止水などを測ることが可能だ。さらに、地震時の液状化防止や近接志向の防護大作など、多様な用途がある。

また、AWARD-Demiは、既存のセメントスラリーを用いた深層混合地盤改良工法を改良したものであり、消泡剤以外は、従来工法と同様の材料を使用する。そのため、施工機械など改良を施したり、特殊な機械を用意したりする必要はないという、従来工法に対してリプレースのしやすい特徴も有している。