東京大学(東大)大学院理学系研究科の平原徹助教と長谷川修司教授、分子科学研究所(IMS)の木村真一准教授の研究グループは、独ユーリッヒ研究所と共同で、2次元トポロジカル絶縁体であると理論的に予言されていたバイレイヤ(2原子層)ビスマスの実験的作成に成功したことを発表した。 同成果は米国物理学会誌「Physical Review Letters」に掲載された。

トポロジカル絶縁体は、金属・半導体・絶縁体・超伝導体といった従来の固体の分類の枠に収まらない物質で、普通の絶縁体は電圧をかけても電流が生じないが、トポロジカル絶縁体では物質の中身は絶縁体状態ながら、その表面や端では普通とは異なる特殊な金属状態が実現して、そこだけ電流が流れるといった特長があるため、近年、次世代の電子材料として注目を集めている。

トポロジカル絶縁体と通常の絶縁体の比較

トポロジカル絶縁体の端の電子は質量を持たず、スピンをそろえて動き回るという特殊な性質を持つほか、通常の物質とは異なり、トポロジカル絶縁体の端の伝導電子は、非磁性の欠陥や不純物によって邪魔されることなく(エネルギーを損失することなく)動き回ることができるという特異な性質を持っている。

2次元トポロジカル絶縁体の概念図

これまで、3次元のトポロジカル絶縁体に関しては多くの報告があるが、それよりエネルギーの損失が少ないと予測されている2次元トポロジカル絶縁体に関しては実験としては1、2例しか報告されていなかった。

今回の研究では、2006年に東京工業大学の村上修一准教授によって提唱されたビスマス(Bi)をバイレイヤ(2原子層)にすると2次元トポロジカル絶縁体になるという理論的な予言に注目。実験的作成に成功し、その電子状態を実際に確認した。

物質を1、2原子層に2次元化することは、炭素1層のグラフェンなどで実際に実現されているが、それでも容易にできるものではなく、これまでバイレイヤBiを実際に作成した研究グループはいなかった。今回の研究では、基板として3次元トポロジカル絶縁体であるビスマステルライド(Bi2Te3)と呼ばれるビスマスによく似た結晶構造を持つ物質を用いることでビスマスがバイレイヤから単結晶超薄膜として成長できることを、電子回折・走査トンネル顕微鏡観察実験から発見した。

そして分子科学研究所の極端紫外光研究施設UVSOR-IIにおいて高分解能角度分解光電子分光法によりこのバイレイヤBiの電子の状態を測定したほか、ユーリッヒ研究所の協力を得て従来よりも詳細な理論計算を行った。

角度分解光電子分光法の原理

その結果、今回作成したBi2Te3上のバイレイヤBiの電子は、おおむね理論計算通りのエネルギー状態を持つことが確認されたほか、基板のBi2Te3の端(表面)状態もBi吸着によってほとんど影響を受けず、2次元と3次元のトポロジカル絶縁体が共存しているという非常に特殊な状況が実現していることが確認された。これもまた、トポロジカル絶縁体の端状態が確かに非磁性不純物による散乱に影響を受けていないことを世界で初めて示した結果となった。

Bi2Te3基板上のバイレイヤBiの電子のエネルギー状態

これにより、実際に2次元と3次元のトポロジカル絶縁体が共存しているという新奇な状態を持つ物質が存在しうることが示されたことから、これを利用して原子1、2層のナノデバイスやスピントロニクスデバイス、量子コンピュータの実現の可能性がさらに進むことが期待される。

そのため、研究グループでは、今後は実際にバイレイヤBiの端状態をより局所的な電子のエネルギー状態の測定手法である走査トンネル分光測定で直接検出することを目指すほか、同時にその伝導特性を東京大学におけるナノスケール電気伝導測定装置を用いて測り、トポロジカル絶縁体の性質の解明を進めていくとしている。