ハッブルやチャンドラとともに、NASAのグレートオブザバトリー計画で重要な役割を果たしているスピッツァー宇宙望遠鏡は、太陽軌道を回る赤外線宇宙望遠鏡である。打ち上げられたのは2003年8月で、高精度の赤外線撮影を行うために5.5ケルビン(マイナス267.65度)まで冷やすことができる冷却剤(液体ヘリウム)を積んでいた。この冷却剤が2009年5月に尽きてしまい、スピッツァーの観測温度は大きく上昇、最も長い赤外線波長は観測不能になってしまった。残念。

とはいってもそこはやはり超高性能望遠鏡。投下している予算もハンパないため、ここであっさり観測を断念してもらっては困る。冷却剤が切れると、NASAはさっそくスピッツァーのウォームミッション、つまり温度が上昇した環境下でも観測を続行するというミッションを開始した。そして2010年の現在も残りの赤外線チャンネルが美しい画像を地球に届けてくれている。

今回紹介する画像も、そのウォームミッション中のスピッツァーが捉えた幻想的な1枚だ。

スピッツァーの"GLIMPSE360"プロジェクトの一環で撮影された一枚。スピッツァーの画像と全天観測プロジェクトの2MASSによる画像を合成している

画像が緑がかっているのは、かすみのように見える部分を浮き上がらせるために着色加工しているからである。星々の間を埋める雲のように銀河に拡がっているかすみを、2つの明るい星が照らし出しているのがよくわかる。

この"かすみ"の正体は多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる化合物で、地球上では石油や車の排気ガス、すすなどに含まれることで知られている。当然ながら人体には有害で、環境汚染の原因ともなるやっかいな物質である。ところがこのPAH、宇宙においては星間物質の重要な構成要素であり、恒星を生み出す"もと"のひとつでもあるのだ。つまり宇宙にとってはなくてはならない存在なのである。

スピッツァーはこれからも当分、こんなふうに宇宙の一端を鮮やかに見せる画像を我々に届けてくれそうだ。