火星にはかつて、地球上の海や湖と同じように大量の水が存在したことが証明されてからもう数年が経つ。そして、いまはつめたいその大地には、はげしい火山活動による溶岩流のあとも残っている。今回紹介する1枚は、"赤い星"と呼ばれる火星のイメージを覆す、生々しい画像である。

火星の軌道を周回する探査機「Mars Reconnaissance Orbiter(MRO)」が搭載する高解像度カメラ「HiRISE」が2007年5月に撮影した、赤道付近に伸びるマリネリス峡谷(Valles Marineris)の北部、ジュヴェンテ・カズマ(Juventae Chasmata)付近

比較的明るくて白っぽく見える部分は、オパールに似た石質のシリカ(opaline silica: 蛋白石質シリカ)を含む鉱床で、これは水分がなければ形成されない。そのほか、硫酸鉄の含有も確認できるという。

マリネリス峡谷は、グランドキャニオンなどをはるかにしのぐ規模をほこる、太陽系内でも屈指の大峡谷である。この巨大な峡谷をすべて水が満たしていたとは考えにくいが、数々の証拠が、たしかにここには水が存在していたことを裏付ける。河となった水が、ときには近くの火山から噴出した溶岩が、はげしい濁流となって谷を削り、その間を風が吹きすさび、そして冬にはすさまじい冷気が地の底から凍りつかせた。爬虫類の硬いうろこのような層状の地表は、何千年にもわたって繰り返されたその営みのあかしである。水源がどこにあったのか、近くの火山群とはどのように結びついていたのか - さまざまな謎の解明がこれからはじまる。