シャープは11月2日、同社のプラズマクラスター技術が、新型H1N1インフルエンザウイルスに対して、付着状態だけでなく、世界初で初めて、浮遊状態における感染力抑制効果があるとの実証実験結果を公表した。

世界で初めて浮遊している新型インフルエンザウイルスの効果を実証

新型インフルエンザウイルスに対する抑制効果としては、すでに、今年8月18日に三洋電機が、同社のウイルスウォッシャー技術において99.9%の抑制を実証。ダイキン工業が9月15日にストリーマ放電技術において100%の分解・除去効果を実証したと発表。パナソニック電工では、10月20日にnonoe(ナノイー)技術が99%の抑制効果があると、それぞれ発表していた。

今回、空気清浄機市場で最大シェアを誇るシャープが新型インフルエンザに対する抑制効果を発表したことで、主要空気清浄機メーカーのすべてが、自社技術において新型インフルエンザウイルへの抑制効果を実証したことになる。

今回の実験は、ウイルス学の世界的権威である英ロンドン大学のジョン・オックスフォード教授が設立したレトロスクリーン・バイロロジー社と共同で実施したもので、イオン濃度30万個/cm3の高濃度プラズマクラスターイオンが、シャーレに滴下した付着新型ウイルスを2時間で99.9%抑制したほか、送風ファンを設置した容積1m3のボックス内の浮遊新型ウイルスを、イオン濃度2万5000/cm3の高濃度プライズマクラスターイオンにより、40分で95%の抑制に成功したという。

付着した新型インルエンザウイルス実験装置の概念図

今回の実験では、付着ウイルスは接触感染を想定したもの、浮遊ウイルスは飛沫感染、空気感染を想定したものになる。

シャープ 健康・環境システム事業本部 空調システム事業部 デバイス開発部長 深田辰雄氏

「実証実験の効果を発表するのが最後発となったのは、新型インフルエンザウイルスは増殖能力が低く、技術的にも浮遊による検証に必要な濃度での増殖が困難であったことが影響している。付着に加えて、浮遊においても抑制効果を実証できた点が他社と大きく異なる点」(シャープの健康・環境システム事業本部 空調システム事業部 デバイス開発部長・深田辰雄氏)とした。

付着した新型インルエンザウイルスの効果

浮遊した新型インルエンザウイルスの効果

シャープのプラズマクラスターイオンは、放電電極に「+」と「-」の電圧をかけ、空気中の水分子と酸素分子を電気的に分解し、水素のプラスイオンと酸素のマイナスイオンを作りだすことにより生成。プラスとマイナスのイオンが浮遊ウイルスの表面を取り囲み、浮遊ウイルスの表面で反応。強力な活性物であるOHラジカルに変化することで、これがウイルスのスパイク状突起たんぱく質から、H水素を抜き取り、水に戻しながら、スパイク状突起表面たんぱく質を破壊。インフルエンザウイルス表面のたんぱく質を物理的に破壊するという仕組みだ。

プラズマクラスターイオンの発生の仕組み

これまでにも、H5N1型トリインフルエンザ、H1N1型ヒトインフルエンザ、ネココロナウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、SARSウイルスの浮遊状態での抑制効果を実証している。

共同実験を行ったオックスフォード教授はビデオメッセージを送り、「プラズマクラスターイオンの応用や重要性を考えると、最大のメリットは多様な種類のインフルエンザウイルスの抑制に利用できるという点。また、この技術は家庭や工場などの様々な場所での応用が可能であり、社会にも生かしていける。

ビデオメッセージを送ったロンドン大学のジョン・オックスフォード教授

インフルエンザはウイルスのなかでも対処が極めて難しいウイルス。対処するためには多層防御の考え方が重要である。ワクチンや手洗い、隔離だけに留まらず、複数の防衛手段が必要であり、その手段のひとつとしてプラズマクラスターイオン技術が有効であると考えている。今回の検証結果に驚きと喜びを感じている。今後、この技術が社会空間、家庭などのウイルスが広がりやすい場所で応用されることを期待している」とした。

深田部長は、「今回は技術発表であり、実際のビジネスへの影響などについては別の機会に公表したい。また空気清浄機の実機での効果は検証していない」として、空気清浄機ビジネスへの影響力について明言を避けている。

業務用の空気清浄機。今回の実験は実機では行っていない

実際、シャープが、空気清浄機やプラズマクラスターイオン発生機、エアコンなどに搭載しているプラズマクラスターイオン発生デバイスは、最大でもイオン濃度2万5000/cm3のものであり、付着ウイルスの実証実験で使用されたものは、30万個/cm3の高濃度プラズマクラスターイオン。また、浮遊ウイルスの実験で使用したのは、2万5000/cm3の高濃度プラズマクラスターイオンだが、実験範囲は容積1/m3のボックス内であり、実際の生活空間とは異なる。

最新となるプラズマクラスターイオン発生デバイス。第7世代となっており、2万5000/cm3の高濃度プラズマクラスターイオンを発生する

歴代のプラズマクラスターイオン発生デバイス

つまり、これは各社に共通した点なのだが、技術としての抑制効果の発表であり、実際の製品に搭載されたものや実使用環境とは異なるものだと捉えた方がいい。

だが、こうした効能によって、空気清浄機の市場はさらに広がりを見せるのは明らかだろう。

社団法人日本電機工業会によると、2009年度上期における空気清浄機の出荷台数は64.7%増の60万6000台。また、9月の実績を見ると、105%増の21万台と前年同月比2倍という出荷台数を記録している。

個人消費の低迷が続くなか、空気清浄機は新型インフルエンザ対策あるいは風邪予防のツールとして、大きな注目を集めているのだ。

空気清浄機メーカー4社が、自社技術における新型インフルエンザウイルス抑制効果を発表したことで、空気清浄機の需要はさらに伸びることになるだろう。