物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の森山悟士独立研究者らは、理化学研究所(理研)の石橋幸治主任研究員らと共同で、炭素原子が蜂の巣状に並んだ原子層1層のシート(グラフェン)を用いて、2つの量子ドットを結合させた2重結合量子ドット素子を作製したことを明らかにした。

研究では、量子コンピュータや単電子エレクトロニクスの基本素子となる量子ドットを2つ結合させた基本的な量子集積回路である2重結合量子ドット素子をグラフェンシート上に作製。。絶縁基板上に取り出した、グラフェンが3層(厚さ:約1nm)のグラフェンシートに対して、電子線ビームリソグラフィ(EBL)と反応性イオンエッチング技術を用いてシートを直接加工。

  1. 電子を閉じ込める2つの近接した量子ドット
  2. 量子ドットに電流を流すための電極(ソース・ドレイン電極)
  3. 量子ドットに閉じ込められた電子のエネルギー状態を制御するゲート電極

この3つの構造をすべて同じ一枚のシート上に作製した。

SiO2基板上に貼り付けられた1層から数層のグラフェンシートの例(光学顕微鏡写真)

量子ドットは長さ20nm、幅15nmの微小な領域を介してソース・ドレイン電極につながっており、単電子デバイスとして動作が可能。実験では、2つの量子ドット中の電子数をグラフェンゲート電極の電圧を変えることで、1個単位で制御することに成功した。蜂の巣のように六角形で形成されたゲート電圧では、ドット内の電子数はドット1の電子数がn個、ドット2が同m個と一定に保たれており、ゲート電圧の値を変えることで、それぞれの量子ドットの電子数を1個単位で変えることが可能である。

今回作製したグラフェン結合量子ドット素子構造の電子顕微鏡写真(濃い灰色の部分がグラフェンシート。薄い灰色部分がナノ微細加工プロセスによりグラフェンシートを削り取った部分。中央の三角形の形状部分が量子ドットに相当する)

また、同六角形は、2つの量子ドットの結合の強さを表しており、これもゲート電圧を変えることで、六角形の形が変化、量子ドット間の結合が静電的な結合からトンネル的な結合に変化する様子が観測されたという。

デバイスのスケールと模式図(量子ドットの面積はそれぞれドット1:0.004μm2、ドット2:0.005μm2)

NIMSらは、今回の試作素子は、基本的な集積化ナノデバイスであるため、グラフェンシートの2次元的に広がる構造を生かして、さらなる大規模な量子ドット集積回路の作製へ研究を進めていけるとしている。

2つの量子ドット内の電子数を1個単位で制御していることを示す図(茶色の部分では電流が流れ図、黄色~緑色の部分でのみ電流が流れていることを示す。それぞれのドット内の電子数(n,m)が白い点線で示す1つの六角形のゲート電圧領域内では一定に保たれており、隣接する別の六角形の領域にゲート電圧を設定するとドット内の電子数が1個単位で変化する)

なお、NIMSらは、すべてカーボン原子で形成されているグラフェン材料では、電子スピンのコヒーレンスが長くなると理論的に予測されており、今回制御することに成功した電子1個の電荷状態のみならず、単一電子スピン状態の制御も目指して研究を進めていく予定であるとしている。