日本オラクルは18日、社内アプリケーションや一般のWeb上のサービスなどを自由に組み合わせて「エンタープライズマッシュアップ」を実現するための統合スイート製品「Oracle WebCenter」を発表した。

全体は大きく「WebCenter Framework」「WebCenter Services」「Oracle Application Development Framework(ADF)」の3つの要素から構成される。WebCenter FrameworkはJ2EEやJavaServer Faces(JSF)などの標準規格に基づくアプリケーションの開発/運用のためのフレームワークで、マッシュアップされたアプリケーションの表示を担う。ADFはマッシュアップアプリケーション作成のための統合開発環境で、同社が無償配布しているJava開発環境「Oracle JDeveloper」を中核とする。WebCenter Servicesはマッシュアップの素材として利用可能な各種のサービス群で、別製品として販売されている「Oracle Secure Enterprise Search」や「Oracle Communication & Mobility Server」のランタイムライセンスも提供される。

Oracle WebCenterの要素

Oracle WebCenter Servicesに含まれるサービス

三澤智光氏
日本オラクル 常務執行役員 システム製品統括本部長

マッシュアップはWeb 2.0の代表的な手法としてインターネット上で各種のサービスを実現するために利用が始まっているもので、今回WebCenterによってはじめて実現可能になったという種類の技術ではない。すでにWeb上でのマッシュアップでは「サービス向上」「開発期間短縮」「開発コストの大幅削減」といったメリットが得られることが実証されており、説明を行った同社の常務執行役員 システム製品統括本部長の三澤智光氏によれば、「数十万円程度の開発費で新たなサービスが実現」「1人で10日ほどで完成」といった成果も既に出ているという。このマッシュアップのメリットを企業内のIT環境に持ち込み、優れたサービスを短期間低コストで実現するために、「"作る"から"組み合わせて使う"という変化を実現」するためのツールとしてオラクルが投入するのがWebCenterということになる。

同氏の説明で強調されたのは、マッシュアップが業務アプリケーションのUI部分だけを切り離し、自由に組み替え、新たなUIを実現する技術として活用できる点だ。オラクルでは、ハードウェアに対する仮想化技術や同社のグリッド技術によってインフラ層の統合化を進めている。また、ビジネスロジックに関してはSOAによる連携/統合が進行しつつある。最後に残った未統合の分野がUIで、ここに対する部品化の推進と、部品の組み合わせによる新たなUI作成が、エンタープライズマッシュアップというコンセプトによって実現することになる。

エンタープライズマッシュアップとは

UIの部品化と組み合わせで促進されるエンタープライズマッシュアップ

同氏は、とくに日本市場でERPに対するカスタマイズ要求が根強いことに言及し、「よくよく聞いてみると、カスタマイズの対象となっているのはUIで、"画面が見にくい"とか、"入力がしにくい"といったことがカスタマイズの動機になっている。しかし、従来のアプリケーションの構造では、UIの変更は必然的にロジック部分の変更を伴い、この結果パッケージのメリットを損うようなメンテナンスをずっと続けなくてはならないカスタムアプリケーションが増えてしまう」という。今回WebCenterで実現したエンタープライズマッシュアップでは、従来の業務アプリケーションのビジネスロジックの部分には変更なしに、UIだけを自由にカスタマイズすることを可能にする。この点が、Webで自然発生的に生まれたマッシュアップというコンセプトをエンタープライズITの領域に持ち込むことの大きな意味となるとの認識だ。

マッシュアップ自体はすでにWeb上でさまざまなサービスの実装手法として利用されているものであり、WebCenterにも技術的な新規性はあまり感じられないのが正直なところだが、エンタープライズアプリケーションベンダとして最大手のオラクルからツールが提供されることで、エンタープライズユーザーにとって「自分たちとは無関係なWebの分野でのトレンド」から「自分たちが使える新手法」へと認識を改めるきっかけとなることが期待される。また、同社が豊富に持つサービス群がWebCenterで組み合わせるための素材として提供されることもインパクトがあるだろう。WebCenterと組み合わせて提供されるOracle Communication & Mobility Serverにはプレゼンス(在席)機能がある。これを利用して、ビジネスプロセスの途中で上司の承認を得る必要が生じた場合、上司の在席確認が即座に行える、といった使い方が可能になる。こうした機能はWeb上でのサービスではあまり思い浮かばない、エンタープライズアプリケーションならではのものだろう。こうした素材を利用できる点が、WebCenterの大きなメリットとなると考えられる。

Oracle WebCenterの価格は、プロセッサ・ライセンスが625万円。1 Named User Plusライセンスが12万5,000円。出荷開始は、Linux x86およびWindows 32bit版が6月19日。その他の商用UNIX向けが7月3日。なお、2007年中に早期導入顧客を30社獲得することが目標として掲げられている。

Oracle WebCenterの構成とそれぞれの役割

Oracle WebCenterの出荷スケジュール