NEC、科学技術振興機構(JST)、理化学研究所(理研)は7日、ビット間の結合をオン・オフ制御できる量子ビットの実証に、世界で初めて成功したと発表した。量子コンピュータの実現に必要となる技術で、研究グループは「デバイスレベルから回路レベルへの質的なステップアップを果たした」とコメントしている。

量子コンピュータは、電子や原子の量子力学的な振る舞いを利用して演算を行う計算機。現在のコンピュータ(古典計算機)では、1ビットに「0」か「1」のどちらかの値しか入れられないのに対し、量子コンピュータの構成要素である「量子ビット」には、2つの量子状態を波のように重ね合わせて、「0」と「1」の状態を同時に持たせることができる。

n個の量子ビットがある場合、この重ね合わせにより、全体としては2のn乗通りの異なる状態を同時に併せ持つことが可能で、この状態のまま演算を行うことができれば、大規模な並列計算が実現する。例えば、古典計算機では数百桁の数字の素因数分解に数千年もかかってしまうが(そのために暗号アルゴリズムにも用いられる)、量子コンピュータではわずか数十秒で解くことができると言われている。

NECは、超伝導集積回路技術を用いて量子ビットとなる固体素子を構成。1999年にはJSTと共同で1量子ビットの制御(1量子ビットゲート)に成功し、さらに2003年には理研と共同で2量子ビットゲートも実現していた。量子コンピュータには、こういった個々の量子ビットの状態を制御する技術に加え、量子ビット同士を結合したり切り離したりする結合制御技術が必要となるが、今回初めてこの実証に成功した。

開発した量子ビット。磁束型量子ビットになっており、従来の電荷型量子ビットに比べ、2桁以上長い保持時間を実現した

研究グループが開発したのは、1つの量子ビットを結合制御用として、その両側に2つの量子ビットを配置した回路。2つの量子ビット間の結合は基本的にはオフになっているが、結合制御用量子ビットに特定の周波数のマイクロ波パルスを加えることで、量子ビットの状態を乱すことなく結合することができる。結合オフ時には、別の周波数のマイクロ波パルスにより、それぞれ独立に操作することも可能だ。

今回実験に成功した2ビット量子演算回路。結合をオンにすることで2量子ビットの演算が可能となる

量子ビットの研究では、原子や分子を使った微視的なものと、固体素子を用いた巨視的なものがあるが、固体素子の量子ビットで動的な結合制御を可能にしたのは世界で初めて。固体素子では、個々の量子ビットの物理的な配置が固定されてしまうことから、結合制御は難しいとされてきたが、集積化という点では有利。また今回考案した構造は量子ビットの繰り返しとなっており、ビット数に対してスケーラブルな回路とすることができる。

量子コンピュータでは、1量子ビットと2量子ビットのゲート操作によって計算が実行される。同時に、結合を自由に切り替える仕組みも必要となる

今回の実証では、この2ビット量子演算回路を使って、簡単な量子演算プロトコル(1量子ビットゲート×2と2量子ビットゲート×1の3つの演算ステップを含む)を実行、予想通りの制御が実現していることを確認した。今後は、さらに演算ステップ数の多い量子アルゴリズムを実行するとともに、量子ビットの集積化も図っていくという。

この研究成果は、JSTの戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究領域「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」における研究課題「超伝導量子ビットシステムの研究開発」によるもの。研究成果の詳細に関しては、米国の科学雑誌「Science」(5月4日号)に掲載される。