「えええ! こんなにスゴイの? イマドキのBTOパソコンって」。冷たい風が突き刺す2016年12月11日、東京・目黒のバンタンゲームアカデミー東京校の教室内は、外とは対照的にアツかった。トップクリエイターを目指す学生たちが固唾を呑んで見守っていたのは、漫画家でイラストレーターのニリツ氏と、3DCGアーティストの朝倉涼氏による公開実践講座だ。冒頭の独り言は、その巧みでリズミカルな描画タッチはもちろん、そのPC機材の構成とプライスに驚き、思わず出てしまったものだ。

この公開講座の正式名は「パソコン工房 Creator's Clinic ~第一回 ニリツ氏×朝倉 涼氏 2Dイラスト・3DCGクオリティアップセミナー」。ニリツ氏と朝倉氏が、制作現場で実践している技術や作業フローについて、実演しながらレクチャーするという内容だ。

アツく盛り上がった「パソコン工房 Creator's Clinic ~第一回 ニリツ氏×朝倉 涼氏 2Dイラスト・3DCGクオリティアップセミナー」

タイトルにあるとおり、同講座は、BTOパソコンで定評のあるパソコン工房(ユニットコム)がコラボし、デジタルアーティスト向けブランド「iiyama PC SENSE∞(イイヤマPC センス インフィニティ)」を両氏が実際に使用して進行。「やりたいことを実現するために最低限必要なPC構成とは何か」「クリエイターに必要なコンピュータースペックを無駄なく選ぶ」などについて、ユニットコムのアドバイザーが解説する。

動き 素体 萌え 影 流行り 姿勢…ニリツ氏の考え方

この講座に潜入した中年記者は、3Dなんて夢のまた夢、2DすらIllustratorやPhotoshopで頭を抱えてしまうド素人。それでも、「へえええ! なるほどねえええ」と唸ってしまうプロの技が垣間見えた。まずは2Dからということで、今回はニリツ氏のCLIP STUDIO PAINT(クリップスタジオペイント 以下、クリスタ)を使った実技に注目し、「手ぶらで帰れるか」という覚悟でトークや技術をメモした。

無駄のない動きのために

「クリスタで線画を描いて、仕上げはPhotoshopでっていうように、ひとつのアプリで作業が完結することはまずない。ケースバイケースでアプリを横断する。まずネーム。クリスタ上でのネーム描きは、デフォルトの鉛筆やブラシで描くようにしている。反対にデフォルトで厳しいのはショートカット。指が動かしやすいように自分なりのショートカットを設定している。たとえば、Ctrlキーを押して手が届くところにとか。基本的に無駄のない動きができるように、ストレスがかからないように、ショートカットを設定していく。ストレスがないことが一番なので」

レイヤーの分け方は?

「レイヤーの分け方もケースバイケース。明確なルールはないが、顔の位置の調整、目の位置の調整などのとき、自分が頻繁に調整するパーツはレイヤーで分けておく(ネーム描きは30分ほどで終了)。こんどは、ペン入れの前に下書きを実施。私の場合は、画力に自信がないので、正しく描けると思ってないので、下書きと言いつつ、まずちゃんと人体を描く。裸の状態の人体をね。素体を描いてその上に服を載せているというイメージ」

反転し対称性を与える意味

「顔もきっちり線対称にしたい。輪郭の半分を書いて、レイヤーをコピーして反転、左右対称の輪郭が現れるという具合。"顔の十字"のアタリも、左右対称を心がけてる。最後に全体の顔の角度をネームに合わせてあげる。3D素体を描けるソフトもあるけど、私はこういう作業を重ねている。なぜ裸の素体を描くかというと、服を載せたあとにシワを入れるとき、その素体にそって入れられる。そういうのが頭に入っていて省略する天才もいるけど、私はそうする」

"顔の十字"のアタリも、左右対称を心がけているというニリツ氏

正しい素体を描くには?

「もともとはデッサンで勉強した。解剖の本であったり、円に特化したルールとか、比率のルールとか、本をいっぱい買って学んだ。この仕事には、意外と知識量がいる。たくさんの知識を動員して、ちゃんとそう見えるように描いている。そのための書物は片っ端からばんばん読んだほうがいい」

最近の萌ポイントのトレンドは?

「(素体の描写が終わって)最近の萌ポイントは胸が高いということ。このあたりは、時代によって変わる。筋肉を全部描くとムダになるし、描き過ぎると萌にならないと。"描かないで描く"というのも知識。ある程度、頭に入っているけど、筋肉についてはその3分の1もまだ入ってないんじゃないかな」

ライティングや影にもトレンドが

「身体にある影がめちゃめちゃになっているというのが最近の流行り。正しく描こうとすると絵が弱くなる。ライティングはめちゃくちゃなのに、化物のように影をうまく描き、演出として見せるアニメも多くある。そのシャドーの流行りも時代性がある。5年前ぐらいは、美麗系が流行った時代があった。そのときは反射光や影があったほうがよしとされていた。時代によって必要とされるものが違う」

「だから、まずライティングの意識は最初にある。どういう絵を描こうかと考え始めるのと同時に、ライティングを考えている。夏の光だったら、黄色の光が当たるとか、影が青になるとか、冬は青い光になって、影が黄色くなる、そうすると服は暖色系かなとか。そうしたライティングや色彩のことをネームや設計の段階で決める。そうしないとあとあと困る」

ペン入れは鉛筆ツールで

「ペン入れはクリスタの鉛筆ツールで行う。パスで描く人もいるけど、私は鉛筆ツール。ペン入れの太さは、A4サイズの紙で描くという設定では、7ピクセルが基準かな。髪の毛が5、顔の輪郭を10とかにしている。もう少し太くてもいいかな」

3Dも2Dも考え方は一緒

「なぜなら、現実にないものをつくるっていうことは共通。そこから説得力をつけなければならない。嘘にパワーを持たせるという作業では、知識と経験に裏打ちされたものがいるということかな」

手抜きしないが合言葉

「商業イラストなど、仕事の描画のためには、省くことも時間をかけることも、両方できなければいけないけど、合言葉は『手抜きしない』でいいと思う。クオリティを上げていくためには、自分に嘘をつかないことが大事」

合言葉は「手抜きしない」と語るニリツ氏

―――学生たちは、プロのリズミカルなトークと速いテンポで進む作業を見ながら、質問や想いをぶつけあった。