「Creative Lounge」は、ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(以下、SAP)」の施策の一つであり、新しい製品やビジネスのアイデアをはぐくむために立ち上げた、ものづくりスペースだ。デジタル工作機器を備え、社員はもちろん、社外の立場にあっても利用することができる。どんな経緯でこの場所は生まれ、どんな製品が飛び立っていったのか。ソニー 新規事業創出部でCreative Loungeを立ち上げ、この場の企画運営を担当する田中章愛氏に話を聞いた。

Creative Lounge

「つくりたい」を新事業にするために

品川駅から徒歩5分、ソニー本社ビルの1階にCreative Loungeはある。カフェのような内装に、3Dプリンターや3D切削加工機(CNC加工機)、UVプリンターやレーザー加工機など、デジタル工作機器が並ぶものづくりスペースだ。

同社は2014年4月にSAPをスタート。この取り組みの一つとして、全社から事業の枠を飛び越えた製品・サービスのアイデアを募るオーディションを3カ月に1度行っている。「コンテスト」ではなく「オーディション」と呼ぶのは、その取り組みではアイデアのみを採用するのではなく、"やりたい人"と"アイデア"にフォーカスを当てて選ぶからだ。このオーディションを通過すると、自らが提案した予算が与えられ、プロトタイピングから製品販売まで「加速支援者」のサポートを受けながら、牽引することができる。

もともとソニー社内には、ものづくりの文化が根付いている。サークル活動や研究発表会は活発で、部署ごとにコンテストも開催されていた。「新しいアイデア、面白いアイデアは上司に内緒でつくれ」といわれていたことがあるほどで、これまでにもいくつもボトムアップで自発的に開発し、数年かけて新たな事業をスタートさせたチームもあったという。

しかし、全員が同じことをするのは難しい。そこで、既存事業の枠を超えた受け皿を設け、埋もれている「種」を芽吹かせるためのプログラムとして立ち上がったのがSAPというわけだ。今の時代、できるだけ早くアイデアを世の中に出し、ブラッシュアップするほうが受け入れられる事業もある。既存事業の枠に当てはまらないアイデアを対象としたオーディションには、この2年間で約550件の応募が集まり、プロジェクト化が決まったものはインキュベーション・開発期間を経て事業化・製品化している。

誰でも「本物」を目指せる工作機器

アイデアを形にするには、さまざまな人と触れ合いながら手を動かせる場所、「部室」が必要だ。Creative Loungeは、その役割を担っている。デジタル工作機器を使えば、それほど熟練した技術がなくても試作品をつくることができる。電気・ソフトウェア・素材といった専門性の枠を超えて、あるいはエンジニアでなくとも、第一歩を踏み出すことが可能だ。

しかし、プロトタイプといっても人前に出す以上「本物の体験」が提供できなければならない。当然、加工機にも本物のクオリティが要求される。Creative Loungeのコンセプトは「1日あればアイデアが動くプロトタイプになる」だ。そうして選ばれた3D切削加工機が、ローランド ディー.ジー.の提供するMODELAシリーズでおなじみの「MDX-40A」と「MDX-540S-AP」だ。

「MDX-540S-AP」(左)と「MDX-40A」(右)

ソニー 新規事業創出部 田中章愛氏

その理由として田中氏は、「ローランド ディー.ジー.の切削加工機には使い慣れている社員が多く、自宅で趣味のロボットづくりに使っているエンジニアもいるほどです。また、3Dプリンターによる樹脂成形だけでは強度や精度が足りないことがあったり、"本物の素材感"が出しづらかったのですが、MDX-540S-APならばアルミまで加工することができます」と述べる。

さらにオートツールチェンジャーにより、簡単に加工することができる。加工の専門家でなくとも、設計データさえ用意すれば、あとはずっと張り付いていなくても、ある程度機械に任せておけて、その間に別の作業ができる。田中氏はMDX-540S-APを「手間がかからずに、気軽な試行錯誤の繰り返しによる設計の学びがあって、本物がつくれるマシン」と評価し導入したのだ。

さらにCreative Loungeには、紫外線を使って樹脂や皮革に印刷するUV-LEDプリンター「LEF-20」も備えられている。デザインをなるべく最終形に近づけるために、デザイナーも満足するクオリティが発揮でき、安全に使える機種が選ばれたのだ。ここでも、試作品といえどもより本物に近づけるため、いろいろなメーカーのUVプリンターを比較し、高いクオリティで表現できるプリンターを選定した。

UV-LEDプリンター「LEF-20」

社内外がまじわるインターフェース、「出島」として

デジタル加工機器の利用にあたっては、まず専属スタッフからトレーニングを受ける。どの機器も、30分~1時間あれば一通りの使い方を身につけることができる。面白いことに、Creative Loungeの利用者は、ソニー社員に限定されていない。それどころか、ソニー社員の紹介があれば誰でも工作できるのだ。

「例えばソニーのエンジニアには、技術は好きだけどどうやって企画したり売ったりしたらいいかわからない、という人もいます。だったら、そういうことが得意な友達を連れてきて、一緒にディスカッションしたり試作したほうがいい。ここは垣根を越えるためのインターフェースというか、『出島』のような共創スペースなんです」(田中氏)

アイデアを生むための方法を学ぶワークショップや、アイデアどうしの「お見合い」をするミートアップなど、さまざまなイベントがここでは頻繁に開催されている。とくに早朝・昼休み・夜間は社内外のメイカーたちでにぎわっている。

さらなる「体験づくり」に向けて

Creative Loungeでの試作を経て、世に出た製品の一つが「MESH」だ。カラフルなブロックとアプリからなるプログラミングキットで、アイコンをつなぐだけで「話しかけると植木に自動で水やりをする」「イスから立ち上がったときに外が雨だったら青い光を点ける」といった具合に、日常に役立つ電子工作をすることができる。

このほかに、スマホでドアの鍵の開け閉めが可能になる「Qrio Smart Lock」や、時計部分ではなくバンド部分に電子マネーや通知、活動量計の機能を持たせた「wena wrist」、電子ペーパーを使って複数の家電の操作ができるマルチリモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」など、ユニークなアイデアの数々が、製品として販売されている。

「MESH」

「Qrio Smart Lock」

「wena wrist」

「HUIS REMOTE CONTROLLER」

「スタートから2年が過ぎました。社内で『何かつくってみよう』『アイデアを考えよう』という動きが増えて、実際に製品に至ったことは大きな成果です。今後の発展としては、例えばMDX-540S-APのように、“製品”がつくれる機器をもう少しそろえて、ここで小ロット生産ができるようにできたらと思っています。自分たちの力で最後まで製品をつくって、お客さんに届けることこそが、一番小さな事業の始まりだと思いますから」

田中氏はそう言って、スタートアップのさらなる充実に期待を寄せた。

(マイナビニュース広告企画:提供 ローランド ディー.ジー.)

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