担当者の多くが退職し、現行システムを理解している社員は限られている──レガシーシステムではそんな話がつねにつきまとう。古いシステムを新しいシステムに移行するだけでなく、データを戦略的に活用して新しいビジネスにつなげるには何が必要なのか?

本稿では、レガシー資産の活用方法として注目される、ITモダナイゼーションの最新事情を紹介する。

デジタルビジネスで注目を集める「モダナイゼーション」

クラウドやモバイルなどの技術が普及し、システムのあり方が大きく変わってきた。「デジタルビジネス」という言葉が示すように、どんな企業でも、ITそのものがビジネスになることを前提としてシステムに取り組む必要が出てきた。そんななか、あらためて注目を集めているのが、古いシステムを新しい世界にどう対応させるかという「ITモダナイゼーション(老朽化IT資産の近代化)」だ。

古いシステムから新しいシステムへの移行は、レガシーマイグレーションとして、これまでもたびたび課題とされてきた。マイグレーションの対象は、メインフレームの場合もあれば、バージョンが古くなりサポートが切れたWindowsシステムである場合もある。いずれにせよ、システムが古くなり、そのまま保有し続けるとコストやリスクが増えるため、新しいシステムに移行していく必要がある。そのため、マイグレーションを行ってシステムを更新してきたわけだ。

マイグレーション事業本部 企画推進部 担当部長 中本 周志氏

ITモダナイゼーションと言った場合、こうしたレガシーマイグレーションよりも、戦略的な意味合いが強くなる。デジタル世界でビジネスを展開していくためには、基幹系システムなどに記録されている販売データや顧客データなどをフロントのWebシステムなどと連携させていく必要がある。その際、単に古いシステムを新しいシステムに移行するだけでなく、データを戦略的に活用して新しいビジネスにつなげていくための工夫が重要だ。それを支える取り組みが、ITモダナイゼーションということができる。

システムのマイグレーション事業を20年以上にわたって展開してきたシステムズで、マイグレーション事業本部 企画推進部 担当部長を務める中本氏は、ITモダナイゼーションへの関心の高まりについてこう話す。

「レガシーなシステムは、使い道がなく取り残された遺物ではなく、業務ノウハウが詰まった資産だと考えられるようになってきました。特に塩漬けシステムの資産をうまく活用することで、新しいビジネスを青写真で終わらせずに済む可能性は高まります。そうしたなかで、既存システムをどうモダナイゼーションすればいいかといった相談が多く寄せられるようになってきました」(中本氏)

「ブラックボックス化したシステム」だけが残された

モダナイゼーションの効果は、想像以上に大きい。まず、レガシーマイグレーションの効果として、運用保守コストの削減と業務効率の向上がある。古いハードウェア機器や業務プロセスの運用がなくなることで、それに費やしていた要員の再配置とコストが削減できる。新しい業務プロセスの採用によって、業務の生産性や効率の向上も期待できる。

また、システムそのものの柔軟性や俊敏性が高まることは、ビジネスにも良い影響を与える。たとえば、クラウド技術をうまく使うことで、現場のニーズをすばやくシステムに反映させ、アプリケーションや開発・運用環境の導入を迅速に展開することができるようになる。結果として、スピーディーなビジネス判断と展開が期待できるのだ。

最も大きい効果は、既存の資産やデータを生かした新しいビジネスにつながることだろう。眠っていたデータから新しい知見を見つけ、それをもとにこれまでにない新規事業が生まれる可能性がある。 実際、IoTのように、既存のさまざま要素を組み合わせて新しい価値を生む取り組みが急速に進んでいる。ITモダナイゼーションは、それを支えるための重要な取り組みの1つになるというわけだ。

「メインフレームやオープンレガシーと呼ばれるUNIXやWindowsサーバを最新のオープンシステムやクラウドシステムに移行して、成果を挙げている企業様が数多くいらっしゃいます。最近のシステムは複雑化が進み、全体像がますます見えにくくなっています。モダナイゼーションを行う過程で、システムの可視化が進み、日々のシステム運用や新しいアプリケーション開発の見通しが立てやすくなることも大きなメリットです」(中本氏)

その一方で、モダナイゼーションのための障壁も年々高まっている。その理由の1つが、ベテランエンジニアの退職だ。レガシー化したメインフレームやオフコンを熟知し、開発・運用を行ってきたエンジニアが定年退職し、そのノウハウがうまく引き継がれないというケースが急増している。

「現役世代は、Javaや.NETといったオープンシステムでのシステム開発が中心で、メインフレームによる開発は行ってきていません。OJTで覚えようにも、メインフレームのシステム開発自体に携わる機会がないことに加え、メインフレーム特有の開発言語、例えばQ言語やRPGといった第四世代言語(4GL)に関する知見が足りないので経験をつめません。ベテランエンジニアの退職とともに、中身がブラックボックス化した塩漬けシステムになり、マイグレーションどころか、システム再構築のとっかかりすらつかめないという状況になってきています」(同氏)

マイグレーションやモダナイゼーションに取り組む際には、現行システムがどのプログラミング言語で作成され、何ステップあるか、どんなデータベースシステムを使っているかなどを把握することが欠かせない。だが、プログラムのステップ数どころか、業務の何を処理しているかさえ把握していないケースもある。なかには、システムがブラックボックス化したまま手付かずになり、システムが停止することでどんな影響がでるかもわからないという危険な状態に陥っているケースもあるという。

モダナイゼーションによってメリットを得ようとする以前に、モダナイゼーションしないことによるデメリットだけが日々増大しているという状況なのだ。

必要なのはモダナイゼーションを見据えた「システムの可視化」

こうした状況のなかで、中本氏が強く主張するのは、モダナイゼーションに向けた「システム資産の可視化」だ。

「モダナイゼーションを行うためには、自社にどんな資産があり、どんな移行手法を策定できるかという視点から、システム資産を可視化する作業が必要です。モダナイゼーションにはいくつかの手法がありますが、そのいずれにおいても可視化は欠かせません」(中本氏)

システム資産可視化のポイント ~ リファクターとリドキュメント

中本氏によると、モダナイゼーションの手法は、大きく「準備的モダナイゼーション」と「中核的/再構築的モダナイゼーション」という2つの段階に分けられる。システムの可視化は、このうちの準備的モダナイゼーションに位置づけられる。そして、準備的モダナイゼーションのなかで、システムの可視化を行う際のポイントになるのが「リドキュメント」と「リファクター」という2つの手法だ。

リドキュメントとは、既存システムのドキュメントを再整備すること。一方、リファクターとは、プログラムの構造を見て、冗長な部分や必要ない部分を削除したりするソースの設計改善作業のことだ。システムズではプログラムの整構造化と呼んでいる。

「たとえば、メインフレームのコードには、業務追加に伴うプログラム修正の際に、goto文で分岐して処理が追加されることがあります。こうした長年の開発・運用で多数のgoto文が追加され使われなくなった箇所がデッドコード化し、所謂"プログラムのスパゲティ状態"になります。システムがブラックボックス化する要因の1つはここです。プログラムの変更履歴管理が不十分でgoto文がどんな経緯で追加されたかがわからず、どう処理されているかもわからない。結果として、手を付けられなくなるのです」(同氏)

プログラムの整構造化を行うと、必要のないgoto文を無くしたり、リマーク(コメントアウト)したデッドコードを削除して見やくしたりできる。可視化ツールによる何万ステップというプログラムを自動で変換可能だ。

システムズでは、このリドキュメントとリファクターという手法を用いた可視化において、「資産棚卸」「日本語データ・ディクショナリー整備」「プログラムの整構造化」「ドキュメント作成」といった作業をサービスとして提供している。

「可視化を行うことで、既存資産を蘇らせるためにリライトやリホスト、リビルド等のモダナイゼーション手法から最適なアプローチを検証可能にし、移行対象システムのあり方全体を見通すことができるようになります。既存資産の有効活用のためにも、モダナイゼーションに向けた可視化に取り組んでほしいと思います」(同氏)

具体的にどのようにして可視化を行っていくのか。次回は、モダナイゼーションの手法と可視化のアプローチについて、もう一歩踏み込んで紹介しよう。

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