日本でICT人材の育成・研修サービス提供の最大手である富士通ラーニングメディアは、プログラミングロボットである「教育版レゴ マインドストームEV3」を社員研修の一部に取り入れている。ロボットによる研修はどのような効果をもたらすのだろうか? 同社へのインタビューをお届けする。

教育版レゴ マインドストーム

色とりどりのブロックを組み合わせて、好きな形をつくるLEGO。子ども時代に夢中になって遊んだ人も多いだろう。マインドストームは、そんなLEGOを用いたロボット作成キットだ。おなじみのブロックに加えて、CPUやモーター、タイヤ、通信機能、さらにはジャイロセンサーやカラーセンサーなど高機能なパーツが用意されている。

マインドストームのプログラミングは言語知識が無くても可能で、さまざまな機能を持つロボットを自由に作ることができる。全世界60ヵ国で200万台以上を売り上げており、日本では正規代理店であるアフレルが商品販売だけでなくマインドストームを活用した社員研修プログラムも提供している。この社員研修プログラムは富士通ラーニングメディアも取り入れて提供している。

ロボットを用いた新入社員研修

ICT人材の育成を支援し続けている富士通ラーニングメディアがマインドストームを研修に取り入れたのは、2004年のことだ。

当時、同社は分析→設計→実装→テストという「システム開発」の流れをいかに短期間で学習させることができるか苦慮していた。本格的にシステム開発の1サイクルを体験しようとすると、言語知識やドキュメント作成などさまざまな前提知識が必要になるが、時間的にもコスト的にも新人研修にそこまでの時間を割くことは難しい。手軽に、短期間で、前提知識を持たない新人でも、システム開発の流れを体得する研修を探していたところ、アフレルが提案していた研修にたどり着いた。受講者は「マインドストームを使って宅配業務を自動化する」などの擬似開発の課題に取り組むことで、システム開発の全工程を学習することで開発の仕事の流れを擬似体験することができる。

富士通ラーニングメディア ナレッジサービス事業部第二ラーニングサービス部 プロジェクト課長 増田晃章氏

富士通ラーニングメディア ナレッジサービス事業部第二ラーニングサービス部 プロジェクト課長の増田晃章氏は次のように話す。

「ディスプレイの中画面上だけでなく実際にロボットが動き、設計がどのように反映されるか確認できることには、大きな価値があります。また、ただ講師の話を聞くだけでなく、自分の手でパーツを付け替えて、チームで議論しながら設計し、ロボットの動作に一喜一憂して学ぶことは、研修へのモチベーションを高めることにも繋がります。私が関わり始めたのは2008年からですが、ここまで高度なロボットを用いたシステム開発のロボット研修は他になかったように思います」(増田氏)

きっかけとなった2004年の富士通株式会社向けの新人研修を皮切りに、現在は、富士通ラーニングメディアが提供している新入社員研修の一部にマインドストームが取り入れられている。研修の前半では言語やUMLの知識を学び、後半では応用編として、ロボットによるシステム開発に取り組む。

受講生からは「システム作りの楽しさや複雑さを学べた」「質の高いコミュニケーションを行わなければ、いい成果物はできないことが分かった」などの反響があったという。また、営業に配属される社員にも、「ひと通りの工程を意識できるようになった」と好評だったそうだ。

これからの人材育成に必要なこと

ロボットを用いた研修と言うと、メーカー系・組み込み系の企業が対象と思われがちだが、マインドストームでのソフトウェア研修は、ICT分野の幅広い企業に取り入れられている。富士通ラーニングメディア ソリューション本部ビジネス推進部長の伊藤正幸氏は次のように語った。

「最近はクラウドサービスを用いてスピーディーにシテム開発ができるようになってきたので、一ヶ月かけてプログラミングを学ぶ、というニーズだけでなく、『短期間でプログラミングを学びたい』というニーズも増えてきた。業界の流れが上流にシフトしているのだと思います」 (伊藤氏)

富士通ラーニングメディア ソリューション本部ビジネス推進部長 伊藤正幸氏

富士通ラーニングメディア 執行役員 ナレッジサービス事業本部副本部長 古川勝久氏

新しいものを生み出す力を育てるためには「教えられるのではなく、自分で本当に経験すること」が重要になると、富士通ラーニングメディア 執行役員 ナレッジサービス事業本部副本部長 古川勝久氏は話す。

「私が新入社員の頃は、研修の中心は知識の詰め込みでした。『コンピューターとは何か』『データベースの基本』といったことをひたすら勉強していったわけです。それだけだと面白くないですし、新人が自ら考えて動けるようには、なかなかなりません。その反省を踏まえて、我々は少しずつカリキュラムを改善していきました」(古川氏)

今はネットを有効に使えば、さまざまな知識がすぐに得られる時代だ。基本的な学びはもちろん必要だが、情報・知識を組み合わせて応用する実践の場がより求められている。

「講師が教えるだけでなく、受講者同士が議論して何かを生み出すという『場』を提供することが、これからの人材育成に必要なことだと思います。また、失敗して覚えることは大事な体験ですが、研修ではいくらでも失敗できます。そういった意味で、チームで試行錯誤しながら短期間でプロジェクトを回すというマインドストーム研修には意義があると考えています」(古川氏)

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