低コストで導入できるクライアント仮想化ソリューション「Ericom」を開発・提供する米Ericom Software CEO Eran Heyman氏の来日に合わせ、日本マイクロソフトの砂金信一郎氏との対談の席を設けた。立場は違えど、クラウドに熱い思いを持つ両者。互いのバックグラウンドを紹介し合った後に、日本企業とクラウドの未来について話は広がっていった──。

(左)日本マイクロソフト 砂金信一郎氏 (右)Ericom Software CEO Eran Heyman氏

“テクノロジー熱”の始まりはイスラエル空軍での防衛システム開発

砂金氏:Ericom Softwareはどのような経緯で設立されたのでしょうか?

Heyman氏:もともと私はイスラエル空軍に所属していてITセクションで防衛システムを開発していました。私のテクノロジーに対する情熱は空軍時代から高まったと言っていいでしょうね。空軍で大規模なシステムを手がけた後、IBMイスラエルに移りコンサルタントとして大規模な分散システムを自治体などに展開する支援をしました。これが、私がコミュニケーション、リモートアクセス、分散環境、大規模環境に取り組み始めたきっかけになります。

そしてこれまでの実績をベースに、最初は端末エミュレーションを活用したメインフレーム的な大規模システムへのアクセス製品を開発して、1993年12月にEricom Softwareを立ち上げたのです。これによりイスラエルで成功を収めた我々は、アメリカへと拠点を移しました。その後もビジネスは順調でしたが、新たな成長分野を目指して、2005年からクライアント仮想化製品市場に進出しました。イノベーティブなテクノロジーを使ってまだ実現できていないこと、そして一番になることを意識した製品開発を行っており、2011年には世界で最も早くHTML5ベースのクライアントのEricom AccessNowをリリースしました。その辺りからEricomはイノベーターとして市場に認知されています。今年の3月には1台の管理サーバで10万ユーザアクセスを処理でき、現存するどんな製品よりも20倍以上の処理性能を備えた新製品のEricom Connectをリリースしました。既に複数の企業に導入されており、著名なアナリストからも好評を得て良いスタートを切っています。

砂金氏:ありがとうございます。今度は私のこれまでの仕事について簡単にお話しますね。私は日本オラクルでエンジニアとして働いた後、ドイツの経営戦略コンサルティング会社Roland Bergerへと移り、日本のITベンチャーの支援などを手がけました。私がコンサルティングをしたITベンチャーは成功を収め、その後はマイクロソフトの一部となりました。そんな経緯もあって、現在、私はテクニカル・エバンジェリストのような立場から、スタートアップ企業や学生との協働プロジェクトに主に携わっています。

クラウドファーストの流れを阻む要因

砂金氏:ここでクラウドに焦点を当ててみたいと思います。どの企業にとってもクラウドとモバイルを武器に、俊敏性、セキュリティ、ITコストを予測可能なものにしてくことは共通課題だと思いますが、その流れを阻んでいる要因はなんだと思いますか?

Heyman氏:クラウドに情報を預けるという抵抗感でしょうか。全ての会社がクラウドを使いはじめる際に、この抵抗感に直面しますし、会社規模が大きければその抵抗感も大きなものになります。とはいえ実際には多くの企業がOffice 365やセールスフォース・ドットコム等を使い始め、会社の機密情報をクラウドに預け始めています。私の会社もOffice 365を使っていますが、社内から使えと言われて最初は抵抗をしていました。しかし使い始めてしまえば、良い意味で何も変わらず使えています。

一端不安を克服してクラウドを使い始めた企業は、クラウドは様々なことが予測可能になるという点が気に入ります。すると、メールだけでなくて、オンプレのあらゆるシステムを予測可能にしたくなります。

砂金氏:一般の消費者としては、Skypeやgmail、Dropboxを使っていて、クラウドを使うことに抵抗感はなくなってきています。今はMicrosoftは法務担当者にクラウドを使う安心材料を提供することに注力しています。例えば、裁判管轄が日本であるといったことは日本企業が外資系のクラウドを使う上では、非常に重要なポイントです。

クラウドでIT担当者の仕事はどう変わる?

砂金氏:ITディヴィジョンのワークスタイルは、オンプレミスからクラウドの時代への変化でどのように変わるでしょうか?

Heyman氏:一般的に言えば、IT担当者にとってクラウドは悪夢ですよ。ビジネス部門は勝手にクラウドサービスを使い始めたり、Azureにアプリケーションを起きたいと言い始める。ITのある部分はクラウドに移しやすいですが、無計画に行えばシステムは分断され、サイロ化します。そうなると効率性が奪われます。したがって、クラウドアプリケーションはモバイルデバイスから使い、基幹業務のWindowsアプリケーションを使うときはPCを使う。そういう風にサイロ化、アイランド化が起きてしまうんです。そんな状況になってCFOが突然iPadを会社に持ち込んできて、「これで業務アプリケーションを使いたい」という無理を言われます。3、4年前からそういうことが起こり始めました。

多くの場合IT担当者は時間に追われています。彼らにとっては安定性やセキュリティを考えながら着実にクラウドに取り組みたいのですが、その時間を与えてもらえません。

Ericomの役目は、サイロ化した古いテクノロジーと新しいテクノロジーの橋渡しをすることです。レガシーなWindowsアプリケーションでも簡単にクラウドに移せますし、20年使い続けてきたWindowsアプリケーションでも、HTML5でブラウザから使えるようになります。複数のデータセンターを束ねたハイブリッドクラウド環境であれば、グローバルで一元的にアプリケーションの配信を行うこともできます。新旧のテクノロジーギャップを簡単に埋められるので、IT担当者は開いた時間を新しいクラウドのテクノロジーをどう利用していくべきか、考える時間を持つことができるようになります。

砂金氏:IT担当者はより価値の高い仕事ができるようになるということですね。それにまつわる面白い話があります。あるIT担当者が会社でサーバの管理業務などをしていましたが、クラウドを積極的に利用して、サーバの実装や管理、監視を自動化したんです。しかし、自動化したことによって彼がやる仕事がなくなってしまったのです。彼は会社を辞め、今はMicrosoftでクラウドのエバンジェリストをやっています(笑)。

Heyman氏:普通のIT担当者は安定を好み、新しいテクノロジーは嫌がるものです。その人は新しいテクノロジーにチャレンジすることができる人なのでしょうね。IT技術者としてのキャリアにも箔が付きますよ。履歴書には「前の会社でクラウドによってITを自動化し、ITコストを削減しました。あなたの会社のITコストも削減できます」と、書くことができますからね。なぜ前の会社の上司は彼を昇格させなかったのでしょう。きっと元上司は数年後に、彼に電話をしてきてこう頼むでしょうね。クラウド側の仕組みが変わってシステムが動かなくなったから直してくれないかって。

帰ってきたクールなMicrosoft

Heyman氏:Microsoftには多くの友人がいますが、彼らにはずっとMicrosoftは停滞している、良くないと言ってきました。私はテクノロジストですから、朝起きるとまず真っ先にテクノロジーについて考えます。お金のことではありません。ここ最近のMicrosoftもそんなイノベーティブなテクノロジーを大事にする会社に戻ったと感じています。

砂金氏:ナデラがMicrosoftをカルチャーだけでなく、オペレーションレベルでもダイナミックに変えています。

先日、『de:code 2015』という開発者向けのイベントがありました。Windows10、IoT、Azure等のテクノロジーセッションを100ほど実施しました。聴講者からはクールなMicrosoftが帰ってきた、といったポジティブなコメントをいただき、Microsoftのイノヴェーションへの期待が大きいことを感じました。

Heyman氏:Windows 10 Everywhere。ローミングアプリケーションなどはとてもクールですね。一消費者としてWindows Phoneは欲しいと思っています。

砂金氏:私の仕事はIT担当者に次の段階に進むように啓蒙することです。 Microsoftの次の仕事は、イノベーティブなサービスを作ることだと考えています。最近だと、MicrosoftはAzure Stackをローンチしました。オンプレミスでパブリッククラウドと同じAPIを使って、パブリッククラウドと同じユーザエクスペリエンスを実現できるようになります。既にミッションクリティカルなアプリケーションをAzure Stackに乗せて実行するお客様も出てきています。

オンプレミスの物理サーバでパブリッククラウドのテクノロジーを動かすというクラウドプロバイダーと同じことをIT担当者が経験を通じてクラウドを理解できる。その経験がパブリッククラウド、ハイブリッドクラウドの利用につながると考えています。

Heyman氏:ハイブリッドクラウドについては3年前からバズワードになりました。普段はプライベートクラウドを使い、繁忙期だけパブリッククラウドをバーストモードで利用するという素晴らしい事例もありましたが、それでも多くの企業がハイブリッドクラウドを取り入れたわけではありませんでした。しかし、2016年はハイブリッドクラウドが実用化される年になると感じています。クラウドプロバイダー側もハイブリッドクラウドで利益を上げられるようになるでしょう。今年はそれを先導する年になると思います。

Azure Stackの利用者はデータを自社の管理下に置き、自社のセキュリティ・ポリシーで運用していきたい大企業が中心になると思います。ほとんどの大企業がモビリティを取り入れ、BYODも始めています。Ericomのテクノロジーは、使い慣れたWindowsアプリケーションをiPadなどの様々なデバイスにデリバリすることができるだけでなく、大企業が求めるスケーラビリティを備えており、簡単に導入できるという点でAzure Stackと親和性が高いと思います。

砂金氏:MicrosoftのソリューションはVDI(仮想デスクトップ)という点ではスケーラビリティがあるものではありません。Ericomのソリューションは、AzureやAzure StackにVDI環境を作りたい、という大企業に対して、役立てられるように思います。コンシューマー向けにサーバサイドのサービスを行っているところに対しても使えそうですね。

Heyman氏:MicrosoftとEricomは良好なパートナー関係を築いています。先日もMicrosoft Igniteに出展していますし、今日だけでMicrosoftから7通のメールを受信しています。日本でもイノベーティブなサービスを作るにあたってコラボレートしてきませんか? Azure Stackのユーザさんを対象にEricomのソリューションをPOCで使ってもらうのも良いですね。

砂金氏:そうですね。日本企業の役に立てるようなコラボレーションになるといいですね。Ericomや代理店であるアシストさんとのコラボレーションを強化し、日本で新しいビジネスを作り出すことができればと願っています。

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