出場を希望した電王戦

──屋敷九段は、第2回将棋電王戦で大盤解説をしていたときに、「機会があったら自分も出てみたい」と発言してファンを驚かせましたが、その伏線があっての第3回将棋電王戦の出場だったのでしょうか。

屋敷伸之九段

ソフトがそんなに強いなら指してみたいという素朴な気持ちですね。普段の対局で、強い人と指してみたいと思うのと同じです。

──もし負けるようなことがあったら、といった不安はありませんでしたか。

大将だった三浦九段もGPS将棋にやられましたし、将棋ソフトがある程度強いということはすでに認識されていたので、負けを恐れることはなかったです。

──第3回は、本番のソフトと事前研究ができるというレギュレーションが設けられて話題になりました。それを聞いたときは有利だなと感じましたか。

ありがたかったです。そういうのがあってもなくても出場を引き受けていたとは思いますが、勝つに越したことはないので、いい条件がいっぱいあるほうがいいです。

──逆に見ると、その条件で負けたらというプレッシャーはありませんでしたか。

そういったことはたしかに思いました。実際、ソフトと練習してみたら、なかなか同じような形にならないので、これは結構大変だなと感じましたから。

──ご自宅に、電王戦公式統一採用パソコン『GALLERIA電王戦』(以下ガレリア電王戦)が届いたのが2013年11月末。対戦ソフトのポナンザ(開発者・山本一成氏)と指してみてどんな印象を持ちましたか。

それまで、第2回のときのバージョンと指していたのですが、それに比べてさらに進歩しているなという感じがしました。中盤から終盤にかけての寄せの構図の鋭さとか、悪くなってからの粘り強さですね。手の見え方がすごいと思いました。

──大将の屋敷九段は、本番まではいちばん長い練習期間がありましたが、どんな準備をしましたか。

最初のうちは、1手数秒から30秒くらいの早指しで、ポナンザがどういう出方をしてくるのか、ある程度の傾向を見ていくということが中心でした。ポナンザは結構いろんな戦型を指すので、的が絞りにくい感じでした。

──ポナンザの序盤はどんな印象を持ちましたか。

隙がありそうでいて微妙にバランスを保っているという感じでしょうか。こちらが攻撃的にいけばすぐに潰れそうだけれど、意外とそうでもないという。バランス感覚に優れているのかなと。駒がバラバラな形からでも突然攻めてきたりとか。こちらもどうやって対抗したらいいのか、なかなか難しいなと思いました。

──本番が近づくにつれて、どういう練習に移っていきましたか。

私の先手番と決まっていたので、ポナンザが居飛車できた場合と振り飛車できた場合の作戦を、つかんでおく必要がありました。最終的にだいたい2通りくらいに絞り込むことができました。居飛車ならこういう感じでいけば横歩取りになるとか、振り飛車ならだいたい穴熊になる傾向が多いのでこういう対抗策でいこうとか。

──そういう戦型的な方針が決まったのはいつ頃ですか。

本当に本番が始まるギリギリです。普段の公式戦の用意などいろいろやることがあり、電王戦にばかり時間を費やすことはできなかったので準備は大変でした。出場を決めた時点で分かっていたことですが。