香港のLTEサービスはこれまで目立った動きが無かったが、今年に入り全事業者が相次いでLTEを開始、激しい競争が始まっている。

LTEスマートフォンが実質無料に

香港のLTEは2010年11月にCSLがアジア初のサービスを開始した。しかしデータ端末が数機種だけでは大きな話題にもならず、加入者も伸び悩みが続いていた。だが今年になってからLTE対応スマートフォンが登場、それを待つかのように他の事業者も相次いでLTEを開始している。人口700万の都市国家香港は、5つある全事業者がLTEを提供する世界でも類を見ない激戦区になっているのだ。

香港はSIMロックフリー、メーカー端末販売の国であるため、通信事業者がメーカーと組み独自開発した端末の販売は行われない。2012年8月時点でメーカー製のLTE端末はSamsungやLG、HTCから4機種のスマートフォンとタブレットが販売されているが、5つの事業者全てが同じ端末を販売しているのである。これは消費者側から見れば事業者間の差は全く無い状態だ。そのため各社は料金とサービスの競争で差別化を図ろうと凌ぎを削っている。

全社がLTEを開始した香港

スマートフォン無料や低料金プランも

まずLTEスマートフォンは、データ定額プランに加入すれば全社が実質無料で販売している。3G時代にも特定の端末が無料販売されるケースがあったが、LTEでは全端末が無料購入可能なのだ。また低料金プランも用意され、端末代は無料にはならないもののランニングコストを抑えたままでLTEを利用できる。端末無料、もしくは3Gの感覚でそのままLTEへ、と2つの選択肢を用意することで顧客のLTE移行を促しているのである。

またスマートフォンの利用がもはや一般的なものになっていることから、特定のWEBサービスやSNSサービスの定額サービスも出てきている。例えばSmarToneは香港でメジャーなSNS「WhatsApp」をデータ非定額プランでも使い放題とするプランを提供。他社も特定のサービスのみを定額とするプランを出しており、スマートフォンの利用し易さで差別化を図ろうとしている。

他には1契約で複数のSIMカードが利用でき、利用分を合算できるマルチSIMカードサービスも全社が提供を開始した。契約は1つでも1枚のSIMカードはメイン利用のスマートフォンで、もう1枚はたまに使うタブレットに、そしてノートPC用のWi-Fiルーターにももう1枚、のように複数の端末でSIMカードを使っても無料利用分は合算される。LTEなら有線LANレベルの高速通信環境が外出中でも利用できるため、ビジネス層だけではなく学生などにも利用者が増えているようだ。

中国との関係強化で力関係が変わる

香港では4つの事業者が3Gサービスを提供しており、1社は2Gのみを提供していた。その1社が中国移動香港だ。同社は香港の通信事業者を中国本土の中国移動が買収したものである。これまでも香港と中国のデュアルナンバーサービスなど、中国ビジネス向けのサービスを提供していたが、2Gのみのサービスではスマートフォンの活用も難しく、加入者数を増やすことはなかなか難しかった。

その中国移動香港はLTEサービス開始と共にデータ通信料金でも香港・中国で初となる課金体系をはじめた。これは香港と中国両国でのデータ利用分を合算するもので、例えば香港で1GBのデータプランに加入した場合、香港と中国、両国でのデータ通信が合算して1GBまで利用できる。中国への往来が多いビジネス層はもちろん、スマートフォンを日常的に使い買物や旅行に出かける一般の香港人客もターゲットにしている。

LTEで勝負をかける中国移動香港

中国との連携サービスが大きな強み

これまで同社の新規顧客獲得キャンペーンは超低料金プランの提供に頼っていたが、得られる顧客のARPUが低く利益増には寄与しなかった。だがLTEの開始によりようやく他社と同じ土俵に立っただけではなく、親会社である中国移動との関係を密にすることにより、加入者増、ARPU増が大きく期待できるのである。

中国移動香港は今年冬にはTD方式のLTEも開始し、FDDとTDのデュアル方式を提供する予定だ。TD-LTEは中国大陸で中国移動が来年にもサービス開始といわれており、そうなれば香港中国両国でLTEをシームレスに利用できる事業者となる。そうなれば中国移動香港のプレゼンスは格段に高まり、それに対して既存の事業者がどのように対抗サービスを提供していくのか目が離せない状況になりそうである。香港のLTEの動きは、中国との関係も絡み今後1-2年の間に事業者間のパワーバランスを大きく変えるものになっていくだろう。