前回、UPS(無停電電源装置)とはどのようなものかについて紹介したうえで、SMBであっても必ずUPSを備えなければいけない理由を説明した。さっそく自社のオフィスにUPSを導入すべく検討を始められた方も多いのではないだろうか。

第2回目となる今回は、実際にSMBオフィスにUPSを導入するケースを想定して、具体的なUPSの選び方について順を追って解説してみることにしよう。

UPSの基本となる3つの給電方式を抑える

最初にすべきなのが、設置場所や設置方法を想定して、UPSのフォームファクター(形状)を決めることだ。

SMBのように小規模なオフィスで利用する場合、どうしても邪魔にならないようIT機器の陰に設置しがちだ。しかしこれではUPSが必要となる非常時に、直接操作することが困難となる可能性がある。そのため、いざという時にUPS本体のLED表示を確認したりボタン操作をしたりすることが可能となるような場所を選ぶようにしたい。

シュナイダーエレクトリックが提供するUPS製品の例。さまざまな形態の製品が提供されている

次のステップでは利用用途に応じた給電方式を選択する。そのためにまず、UPSの給電方式の違いとそれぞれの特徴について説明しておこう。

UPSの給電方式は大きく次の3つに分けられる。

1 常時商用(オフライン)方式

通常時はそのまま(コンセントから)商用電源で接続機器に出力し、電源障害時にはバッテリーからの出力へと切り替える。この時、バッテリーから出力される電力はDC(直流電流)なので、インバーターによってACへと変換されてから機器へと出力される。

特徴

  • 低コストで導入しやすい
  • 電力ロスが少ない

常時商用方式の仕組み

2. 常時インバーター(オンライン)方式

コンバーターとインバーターを備えており、通常時はコンバーターでACからDCに変換し、これをインバーターで再度ACへと変換してから接続機器に電力を供給する。コンバーターとインバーターの間にバッテリーが備えられ、常に充電されている。電源障害時にはバッテリーからの出力に切り替わるが、常時バッテリーに通電しているため切り替え時間が全く発生しない。

特徴

  • ノイズやサージの影響を受けずに非常に安定した電力の常時供給が可能
  • 停電時に瞬断が発生しない

常時インバーター方式の仕組み

3 ラインインタラクティブ方式

UPSメーカーのシュナイダーエレクトリックが業界に初めて紹介した給電方式で、常時商用方式と常時インバーター方式の中間に位置する。通常運転時は、サージ抑制器、フィルター、インバーターを介して接続機器に電力を供給し、電源障害時やフィルターで除去できない電圧波形が侵入した場合にバッテリー運転へと切り替える。バッテリーを利用するのは切り替え時のみのため、バッテリー寿命が長い。

特徴

  • 電圧調整機能やノイズ除去機能を備えている
  • 通常運転時にもインバーターを介しているため、常時商用電源方式よりも切り替え時間が短くて済む

ラインインタラクティブ方式の仕組み

これら3つの給電方式のなかからどれを選ぶかは、UPSの用途に応じて考えたい。例えば常時インバーター方式は、IT機器が密集してノイズが生じやすく、また電源障害時にも少しの瞬断も許されないような大企業のサーバールームやデータセンターでの利用にうってつけだと言える。ただしSMBでの導入であれば、オフィス内のサーバーや部門サーバー、Webサーバーなどの利用が最も一般的であり、瞬断程度であれば許される場合が多い。したがって、コストパフォーマンスにも優れたラインインタラクティブ方式をお勧めしたい。

UPSの容量を決める

次は、UPSを使ってバックアップしたい機器を決める。電源異常時にバックアップすべき機器には、サーバーをはじめとして、クライアントPC、ストレージ機器、ネットワーク機器、場合によってはFAXなども含まれるだろう。これらの機器が異常シャットダウンした場合の影響範囲や、保存される情報の重要性などを基準として、それらを保護するためのコストを投じる対象を選ぶといいだろう。

バックアップ対象機器を選んだら、今度はそれらの最大定格電力値からUPSの容量を決定する。それぞれの機器の最大定格電力を調べて、合計値を計算するのである。ここで注意しておきたいのは、適した容量の製品を選ぶこと。大目に見積り過ぎるとコストパフォーマンスが低下してしまうし、逆に少なく見積もった場合には障害発生時に想定よりも短い時間しかバックアップできなくなってしまう。最大定格電力は、機器の仕様書などから調べるか、メーカーに直接問い合わせるといいだろう。

普通、最大定格電力はVA値とW値の双方で示されるが、もし表示がVA(volt-ampere)値かW(watt)値のどちらか一方だった場合には、次のように計算すればいい。まず、VA値からW値を求める場合は、VA値に力率を掛け合わせる。コンピュータ機器の場合の力率は通常0.6~0.7とされているが、機器の仕様により異なるため注意が必要だ。逆にW値からVA値を導き出すには、W値を力率で割ればいいのである。

こうして算出した各機器のVA値の合計とW値の合計よりも大きな定格容量を持つUPSが、選択肢として絞り込まれるのである。

ベンダーのカタログを参考に自社に最適なUPSを決定!

いよいよ最後のステップでは、バックアップしたい時間を基準にしてそれを満たすUPSを選択する。ちなみにバックアップすべき時間については、接続する機器のシャットダウンまでの時間や運用形態によって異なってくる。

UPSごとのバックアップ可能時間を知るには、ベンダーが提供しているカタログなどを参考にする。ここでは、ラインナップが豊富で信頼性が高く、コストパフォーマンスにも優れた、シュナイダーエレクトリックのSmart-UPSシリーズを例として考えてみよう。

シュナイダーエレクトリックのSmart-UPSシリーズ 一部製品のバックアップ時間表( Smart-UPS全シリーズのバックアップ時間表はこちら)

350VA、245Wのサーバーと、150VA、105Wのモニターを15分間バッテリー運転で運用できるような、ラインインタラクティブ方式のタワー型UPSを選択するとしよう。この2つの機器を合わせた必要容量は、500VA、350Wとなる。

図を参考に、この容量を満たすVA値560、W値400の欄を追っていくと、15分以上バックアップすることができるのは「SMT1000J3W」以上のUPSであることがわかるだろう。

念のため、床荷重やアースもチェック!

こうして製品を決めたら、念のため床荷重もチェックしておこう。例えば、ラックに設置するのであれば、各種のサーバー、ネットワーク機器に加えて、大容量のバッテリーを備えたUPSが載ることになる。一般的なSMBのオフィス環境では問題になることはそれほどないかもしれないが、見落としがちなポイントなので、想定重量に耐えられるかどうか一応調べておくとよいだろう。

そのほか、アース接続が可能かどうか、分電盤の容量に問題がないかといった点も検討事項に挙げられる。ただし、すでにサーバーなどを導入し、運用しているオフィスであれば、これらについてはそれほど心配ないと言える。

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以上、今回は自社のオフィスに最適なUPSを選ぶうえでの基本について説明した。PCやサーバー、ネットワーク機器とは性質の異なるものだけに、初めての購入ではとまどう方も多いかもしれない。しかし、上記のとおり、基本仕様にはそれほど複雑なものはない。予算や接続機器が決まれば自ずと導入製品も決められるはずだ。

さて、導入を決め、製品を購入したら、いよいよ運用を開始することになる。その際には管理ソフトウェアなどで簡単な設定が必要だ。実は、そこにはちょっとした便利機能などがあり、こちらも製品選定の基準の1つになりうる可能性がある。次回は、そのあたりを解説していきたい。