昨年の夏からメインマシンを12.9インチのiPad Proにしている。Webブラウジング、Kindle、YouTube、メールやTwitterのチェックなど情報を消費するためだけではない。原稿を書いたり、資料を整理したり、写真を編集するといったプロダクティビティにも使っている。MacBook Proを全く使わなくなったわけではないけど、仕事でもiPad ProまたはiPhone 7 Plusを使っている時間の方が圧倒的に長い。
最初は慣れなく感じることばかりだった。長年パソコンでの仕事に慣れきった身には、特にファイルマネージャーがないことがツラかった。Windowsのファイルエクスプローラー、またはMacのFinderに相当するツールである。そこで端末で完結させるのをあきらめて、完全にクラウドをストレージと見なすようにした。それからはファイルの扱いや管理が、それほど苦にならなくなった。iCloudやDropboxとの連携はどんどん便利になっている。写真やビデオ、音楽など、大量のファイルはNASで管理しているが、写真はクラウドにもアップロードしてあるし、音楽はストリーミングサービスで聞くようになって、クラウドだけでほぼ用が足りている。
モバイルデバイスをプロダクティビティに使えるかどうかは仕事の内容次第だが、ライターの場合、快適に書ければ何とかなる。だから、Apple PencilとSmart Keyboardの登場が転機になったし、個人的には自動化アプリの「Workflow」を使い始めたことと、定型文やHTMLタグなどを省略タイプで入力できるようにする入力補助ソフト「TextExpander」をiOSで便利に使えるようになったのが大きかった。
iOS版のTextExpanderは画像のTextExpanderキーボードを使わないとスニペットを展開できないのが不便だったが、UlyssesやBywordなどTextExpander拡張をサポートするアプリが増え、それらではどのようなキーボードを使ってもスニペットが展開する。Mac版のTextExpanderと同じように使用できる |
個人的には先取りしている気分なのだが、他にもiPad Proをメインマシンにしている同士がいないかアンテナを張っていても、残念ながら増えているという実感は全くない。ただ、昨年末に「A Computer for Everything: One Year of iPad Pro」が話題になるなど、以前にはなかった情報が広がり始めているので、時代に逆行しているという感じでもない。AppleのCEO、Tim Cook氏も日々の仕事をiPadでこなしているそうだ。
ただ、「不便じゃないの?」と聞かれたら、「そんなことはない」と明言できない自分もいる。今日のiOSは、iPhone向けに設計されていると言っても過言ではない。それを12.9インチのiPad Proで使うのは無理もある。画面を分割したマルチタスクやトラックパッド機能、キーボードショートカットなどiPad向けの機能も用意されているものの、それらが追加されたのは2015年だ。画面分割のアプリは選択しにくいままだし、ホーム画面はiPadの広いスペースを有効に使えていない。もっとiOSがiPadに最適化されないと、せっかくのiPad Proがもったいない。
それなら「なんでiPadを使っているの?」という話になるが、最大の理由はiOSアプリである。Macをメインマシンにしていた頃はPCでできることが基準で、PCで動くフル機能のアプリが動作しないiPadはPCの置き換えにはならないと考えていた。ところが、実際に乗り換えてみると、そこはそれほど苦にならなかった。それよりも逆にiOSアプリでは簡単にできるのに、PCだと面倒なことの方が気になり始めた。
iOSアプリがPC用アプリのモバイル版だったのは今は昔、クラウドやオンラインサービス、ソーシャルを活かしたソリューションは今やモバイルアプリから誕生している。モバイル世代に言わせたら、モバイルこそがコンピューティングであり、PC用アプリはレガシーなデザインに基づいている。
2017年以降に登場する全てのChromebookでAndroidアプリが利用できるようになるというのがしばらく前に話題になった。Chromium OSのサポートページ「Chrome OS Systems Supporting Android Apps」に書かれた「All Chromebooks launching in 2017 will work with Android apps at a time to be announced in the future」という一文がきっかけだった。PCユーザーにしてみたら、WebベースのChrome OSアプリにAndroidアプリが加わっても、それほどChromebookの魅力が変わるわけではない。しかし、今日の新興市場ではPCではなく、スマートフォンでインターネットに接続し始め、スマートフォンでインターネットを活用している人たちが増えている。そうした世代にとって、Androidアプリ対応は大きなインパクトになる。Chromebookで成すべきことをGoogleは実行していると言える。
過去の資産を活かせるプロダクティビティツールとしてはMicrosoftのSurface Proの方がiPadに勝っている。PCユーザーの次のステップとしてはSurfaceが自然だと思う。しかし、PC時代のアプリケーションがそのまま動作するだけではモバイル世代のニーズを満たせない。2-in-1が期待されたほど成長していないのは、Microsoftが携帯を含むモバイルとアプリストアで勝負できていないのが大きな原因の1つである。
iOSとiPadに不満を抱きながらも、私がiPad Proをメインマシンにしているのは、今はiOSアプリからユニークで新しいソリューションが登場しているからだ。クラウドとサービスから成る環境の可能性を引き出すソリューションが次々に出てくる。これからのコンピューティングのダイナミズムを体験できる。こういう風に自分のマインドセットが変化するとは正直予想していなかったが、PCへの執着がなくなった今は、それがとても自然なことに感じている。