Wall Street Journalなどによると、モバイル向けにフォト/動画メッセージングサービスを提供しているSnapchatが、Facebookからの30億ドル以上の買収提案を拒否した。CEOであり、共同設立者のEvan Spiegel氏がまだ23歳というのも大きな話題になっている。

Snapchatユーザーの大半はティーンエイジャーである。中核サービスは、共有したら数秒後に消滅する写真共有だ。送信する側が表示する時間を設定し、受信側が開いたらカウントダウンが始まって、設定した時間に達すると写真が消滅する。設定できる時間は1秒から10秒。モバイルアプリなので、消滅する前にOSのスクリーンキャプチャ機能を使ったら画像として保存されてしまう。だから、キャプチャする間を与えない程度の時間に設定するのがコツ。ちなみにデフォルトは3秒だ。もしキャプチャされてしまったら、その事実が送信側に通知される。

写真を撮影、消滅までの時間を設定して共有する。写真に手描きすることも可能

面白いけど、いくらなんでも30億ドルはありえない。しかも、それを拒否するか……というのが、報道が広がった後の大方の反応である。19日に、Dropboxが同社の評価額を80億ドルに引き上げ、2億5000万ドルの新たな資金調達を検討していると報じられた。これを受けて、ReadWriteは「ホンモノの企業はカネを生み出す」とDrobboxの資金調達はバブルではないと評価し、一方でサービスからの売上のないSnapchatについては完全にバブル扱い。「Snapchatを30億ドルと評価? どうしようもないほど愚か」とこき下ろししている。

しばらく前だったら、筆者もReadWriteの見方にうなずいていたと思う。2012年のFacebookによるInstagram買収は10億ドル、それでも大盤振る舞いという声があったぐらいだ。でも、それはSnapchatを必要としていないおじさん達の見方であって、実際のユーザー(ティーンエイジャー)の話しを聞いてみないことには実状は分からない。

今年の夏に米国の高校生にメッセージの内容を見せてもらえる機会があった。ごく普通の男子高校生で、同級生の女の子とのたわいないメッセージのやりとりなんだけど、ログに残されて後で読み返すとけっこうキツい内容。会話しているようなノリで気軽にその時の雰囲気でやりとりしたのだろうけど、恥ずかしいメッセージのオンパレード。悪のりがどんどんエスカレートして、とんでもなくプライベートな写真まで送ってしまっていることも。当然、彼女と上手くいかなくなったら、それまでに送った数々の写真がトラブルの原因になる。

彼女から友達に拡散されるかもしれないし、親にばれたら思慮が浅いと言われるだろう。そんなことは本人もちゃんと分かっていて、それでもヤバい写真や動画を送るとウケるから楽しくて止められない。これは何も珍しいことではなく、小さい頃からメッセージのようなサービスが存在した今どきの米国のティーンエイジャーの日常であり、恥ずかしい写真を拡散されたトラブルなど身の回りにいくらでもある。だから、写真が残らないSnapchatが今どきの高校生の必須サービスになっている。

Snapchatの共有数は6月時点で1日に2億スナップだったが、半年とかからずに4億スナップに倍増したという。これはFacebook/Instagramを超える数字である。一般的にはふざけた写真を気軽に送れるカジュアルなサービスと受け止められているが、ただカジュアルなだけでは、こんな爆発的な成長は果たせないだろう。CEOは23歳。若い起業家だからこそ作れたサービスであり、若い起業家がティーンエイジャーのために作ったからこそ爆発的なヒットになったと言える。

ただし、SnapchatがFacebookの提案を蹴ったのは大人の事情であるようだ。New York Timesによると、Snapchatを支援するBenchmark Capitalがもっと高値で売れると見ているのが影響しているという。

前回取り上げた「Everpix」のように、技術やサービス内容が高く評価されているのに資金調達が上手くいかずに解散に追い込まれるスタートアップもある。何が違うかと言えば、ユーザー数である。Everpixは製品を磨くばかりで、ユーザーを獲得する戦略を怠った。Dropboxにしてもそうだが、資金はユーザーを集めたサービスに流れ込むのが現実だ。買収提案も同様である。

ただ、その結果がユーザーにとって望ましい状況になっているとは言いがたい。最近、若者のFacebook離れが指摘されているが、もしFacebookがSnapchatの買収に成功したとして、ティーンエイジャーは再びFacebookに関心を持つだろうか。

AppleのSteve Jobs氏がDropboxの買収を検討した時に、Dropbox創設者のDrew Houston氏に「Dropboxは製品ではなく機能だ」と言い放ったという。言い換えれば、製品に仕上げるか、または機能として活かせるプラットフォームに収まらなければDropboxの価値を引き出せないということになる。Dropboxは前者を選択した。同じような例では、Evernoteが100年企業を目指すと公言している。どちらも順調だ。後者の例では、Marissa Mayer体制のYahoo!においてTumblrチームが以前よりもサービス開発に力を注げるようになった。しかしながら、こうしたユーザーの利益にもつながるケースはまだまだ少ない。