精神的にもろい「ティーカップ・キッズ」、すぐ親元に戻ってしまう「ブーメラン・キッズ」、誰もが勝者な「トロフィー・キッズ」、決して成長しない「ピーターパン世代」…… 日本のマスメディアが若者を紹介するときに使いそうな言葉だが、これらは米国のメディアがいわゆるジェネレーションYにつけた呼び名である。

ワシントンポスト紙に掲載された「How those spoiled millennials will make the workplace better for everyone」(スポイルされたミレニアルズが誰にとっも働きやすい職場をつくる)という記事が面白かった。ジェネレーションYと呼ばれる年代層には幅があるが、この記事では1982年から1999年の間に生まれた世代を指している。今の30歳未満だ。昇給や出世のような上昇志向は少なく、だから「ノーカラー労働者」と呼ばれる。

しかし、見方によっては仕事へのこだわりが最も強い世代でもある。自分にとって理想の仕事を追求し、つまらない仕事を続けるぐらいなら辞めてしまう。「生活できなくなったら、どうしよう」なんて悩みはない。社会人になっても、悪気なく両親のサポートを受けられる。なによりも自分と自分の時間が大切で、それらを優先する。今年3月にMTVが行った意識調査で、81%が「自分の時間は自分でコントロールできるべきだ」と答えた。「職場でも"自分の時間"が必要」は71%(ベビーブーム世代は39%)、「自分は理想の仕事に値する」は90%である。加えて、「彼らは自分にアイディアがあるときは、たとえ自分が会議室の中で最年少であったとしてもレスペクトされるべきだと期待する」というから、常識(=慣習)が尊重される職場にはなかなかフィットできない。

しかし最近、このジェネレーションYの考え方が世代を超えて広まる気配があるという。景気低迷で会社がリストラを実行し、残された社員が抱える仕事量が増えているのに給料や待遇は下降するばかり。失業の心配は払拭されず、会社のために尽くして働き続けても自分が報われないような気がする。

そんな空気を感じて対策に乗り出す会社も増えているそうだ。ROWE(Results Only Work Environment : 完全成果型の職場環境)を掲げ、会社のためにかいた汗や費やした時間ではなく、生産性で社員を評価する。やりたい仕事をやり、ちゃんと目標に達していれば、夕方前に退社しようが、超長期休暇を取ろうが自由自在だ。ジェネレーションY化の度合いは会社によって異なるが、「いちいち集まって話し合わなくてもSkypeで……」という若い社員の意見を一蹴していたようなカタい会社でも、伝統へのこだわりを捨て始めているという。

フレックスタイムやジョブシェエアリングなど、個人を尊重する制度を採り入れた会社はすでに数多く存在した。だが、今回はベビーブーマー世代の価値観の中に採り入れているのではない。厳しい不況でベビーブーマー世代のプライドがこなごなに砕かれ、その結果としてジェネレーションYのものの考え方へのシフトが進み、そして「誰にとっも働きやすい職場」が実現しているところに、これまでとは違う大きな変化が感じられる。

紙時代を引きずるパブリッシングに終止符

Evan Williams氏とBiz Stone氏が「Branch」と「Medium」という新サービスを限定的に公開した。両氏はすでにBloggerとTwitterを大成功させている。Mac、iPod、iPhoneを世に送り出したSteve Jobs氏のように3度目を成し遂げられるか……という興味も含めて、シリコンバレーでは大きな話題になっている。

TwitterプラットフォームのAPI変更に関するBranchでの議論、こうした会話をWebページに埋め込むことも可能

Mediumにはテーマに合わせた美しいテンプレートが用意され、文章や写真を投稿するだけで見映えよく、また読みやすく表示される

Branchはディナーテーブルを囲むような近しい人たちのコミュニティで、特定のトピックに関する会話や議論を深められるコミュニケーションサービスだ。Mediumは文章や写真など様々なコンテンツを簡単に公開できるパブリッシング(公開)サービスである。Collectionと呼ばれるテーマを誰かが設定し、Collectionに投稿する形になる。こうした流れは掲示板に似ている。投稿は読者に評価され、Collectionごとに優れたコンテンツが読者の目に付きやすい場所に残る仕組みだ。

Williams氏は「たくさんのサービスによって情報共有のハードルは引き下げられたが、作成されるコンテンツの品質を引き上げるという点では、あまり大きな進展が見られない」と述べている。各Collectionにはテーマに合ったテンプレートが組み合わされ、投稿した文章や写真が非常に美しく表示される。見せ方次第でコンテンツの価値が変わると考え、テーマを引き立てるデザインにこだわっているのも特徴である。以下はBiz Stone氏によるMediumの説明からの抜粋だ。

「アイディアをインターネットに乗せるのは素晴らしいことだ。たくさんの人に広められる。しかし、紙の文字を印刷するようにスクリーンに言葉を並べるだけでは、われわれ全員をつなぐネットワークやパワフルなコンピュータの長所を活かせない。パブリッシングはいまだに古くさいレガシーなコンセプトに則ったままであり、だからこそ改善や革新の余地は大きい。コンテンツを作成する方法からコンテンツを消費する方法まで、すべてが再発明を必要としている」

現時点で一般ユーザーがアクセスできるサービスは一部で、まだサービスの全貌は見えてこない。おそらくサービスが本格的に公開されたとしても、初期のTwitterのように土台と枠組みだけという感じで、アーリーアダプターとともに少しずつ作り上げていくスタイルを取るだろう。だから、サービスがどのように変化していくかも現時点では予想しにくい。

プレビューに対するメディアの反応には「目新しさに欠ける」「斬新ではない」というような厳しい評価が並ぶ。たしかに、ハッとするような新規性は見当たらない。すでに「掲示板に似ている」と書いたが、他にも「Pinterestのような」「Tumblrのような」「Redditのような」というように、使ってみるとあらゆるところで「……のような」が思い浮かんでくる。

ただ、それらは単なる模倣ではなく、巧みな組み合わせである。喩えるならば、個々のパーツや使われている技術はごく普通のもので目新しさはないが、完成した製品は個性あふれるApple製品のようだ。

うまいと思うのは「古くさいレガシーなコンセプト」を否定しながら、ジェネレーションYではなく、それよりも上の世代に訴求するサービスになっているところだ。Twitterも米国では30代以上のユーザーが多く、ジェネレーションYからは野暮ったいサービスと見られている。Bloggerにしてもそうだが、Williams氏とStone氏が繰り出すサービスは、物心ついたときからインターネットが当たり前だった世代ではなく、レガシーな世代がネットになじめるサービスになっていた。だから成功した。BranchとMediumも例外ではない。ただし、Blogger、Twitterよりも踏み込んでいて、レガシーな考え方を持ったユーザーに終止符を打たせ、ジェネレーションYのものの見方に開眼させるような感じになっている。

BranchとMediumは目新しい機能を持ったサービスではない。だが、レガシーな価値観を崩してジェネレーションY化を進めようとしている点では非常にユニークなサービスである。