FacebookがFriendFeedを買収したが、Web中に散らばる自分の公開情報をまとめ上げるのは今日のネットユーザーの悩みである。ブログにマイクロブログ、SNS、写真・動画共有サービス、ブックマークやスケジュール共有など、利用サービスは増える一方だ。一つ一つが自分を表すものの、やはり全てをひっくるめてネット上における自分(=アイデンティティ)である。逆に言えば、ネット上でアイデンティティを確立するには、自分がどのようなサービスを使って、どのような活動を行っているのかを第三者に見つけてもらえる手法が必要になる。これが簡単なようでいて、なかなか効果的なソリューションに至らない。

この問題の解決に、元LiveJournal創設者、現GoogleのBrad Fitzpatrick氏が乗り出した。8月14日に同氏はGoogle Gorupsのディスカッションを通じて、「WebFinger」を実現するプロジェクトの始動を明らかにした。

WebFingerという名前は、今や消えてしまった(と言ってもいいだろう)「finger」からつけられた。ネットワークを通じて特定のコンピュータやユーザーのステータスを交換するプロトコルだ。「finger ×××@×××.com」とするだけで、リクエストしたユーザーの情報や状況にアクセスできる。ステータス共有の先駆けと言えるようなサービスだったが、セキュリティやプライバシー上の問題から90年代にはほとんどが停止してしまった。そのfingerのメリットを、HTTPで再現しようとしているからWebFingerである。具体的にはGmailアドレスを、ネットにおける自分のアイデンティティを表すID(identifier)として用いられるようにする。

個人に結びつかないURL

ネット上でのIDというと、今日ではURLが用いられている。単に自分が利用しているサービスやネット上で公開している情報をまとめて伝えるだけなら、個人のWebページやブログを用意して、そのURLを配布すれば間に合うはずだ。ところが、URLでは伝わらないという声が聞こえてくる。

たとえば、複数のサイト間でシングルサインオンに近い環境を実現するOpenIDだ。Yahoo!やGoogleなど発行をサポートするサイトから取得したURLベースのOpenIDを用いて、すべての対応サイトで個人のアイデンティティを証明できる。匿名コメントを拒否しているブログであっても、そのサービスがOpenIDに対応していれば、そこにアカウントを持つことなくOpenID認証でコメントを書き込める。サイトの壁を簡単に乗り越えられる便利な認証システムだ。しかしながら、利用・普及のペースは芳しくない。今年4月、ソーシャルネットワーキング・ツールのCrowdVineが「もう誰もOpenIDは使わないの?」というレポートを公開している。積極的にOpenIDに対応し、初期利用者からは「非常に便利」という反応ばかりが集まっていた……にも関わらず、一般ユーザーのOpenID利用がさっぱり伸びない。こうした伸び悩みは様々な場所で指摘されており、原因としてOpenIDがURLである点が挙げられている。一般ユーザーはURLをWebページやドキュメントなどに関連づける。メールアドレスのように個人のものと見なさないため、IDとしてユーザーから認知されにくいというわけだ。実際のところURLは扱いやすくて、見つけやすい。機能的にはIDに適しているのだが、これをIDとして使用してもらう上で、広く一般ユーザーに受け入れられるユーザーインターフェイスやユーザー体験が実現できていない。むしろURLに対する混乱が増している印象だ。

URL形式のOpenIDのユーザーID。URLにはメールアドレスのような一定の形がなく、サービスごとに異なるのもユーザーが混乱する原因と見られている

では、ユーザーから個人のものとして認識されているメールアドレスはどうだろう。こちらはサイトへのログインなど、様々な場所でユーザーIDとして用いられている。だが機能的にメールアドレスは電子メールを受け取るための宛先でしかなく、URLのようにデータは組み込めない。サービス間を結ぶIDとしては十分ではない。

Fitzpatrick氏はIDとしての受け入れやすさを重視し、メールアドレスにメタデータを添付できるようにして、ユーザーを表すIDとしてより有用なものにしようとしている。WebFingerにおいて、このメタデータに包含する情報として、公開プロフィール、OpenIDサーバなどアイデンティティ・プロバイダへのポインタ、パブリックキー、メールアドレスで利用しているサービス、アバターへのURLなどを挙げている。逆に、公開データが一切付属しないメールアドレスであることを宣言することも可能だ。

IDとしてのメールアドレスの価値を問う

もらったGmailアドレスから、そのユーザーが公開している写真やブログにアクセスできる。相手が利用しているカレンダーサービスを確認すれば、スケジュール共有が可能かもすぐに分かるし、OpenIDも利用できる。なるほど便利そうである。ただGmailアドレスが個人のIDに……となると、今日ではGoogleの邪悪な一手と受け止められかねない。

WebFingerのポイントは、メールアドレスのような一般ユーザーにとって分かりやすいIDの実現である。Fitzpatrick氏は「他の形でコミュニティ全体の合意が得られれば、われわれもそれに従うだろう」としている。Gmail/ Googleアカウントの新展開として興味深い動きだが、まずはGoogleが投げてきたWebFingerというボールをWebコミュニティがどのように受け止め、そして投げ返すかに注目したい。