Operaブラウザの「Speed Dial」、Chromeの「よくアクセスするページ」に続いて、AppleもSafari 4(Beta)に「Top Sites」というよく利用するサイトを自動的に一覧表示する機能を追加した。新規タブのロードの負担にならずにサクサクと開くし、RSSリーダーよりも早くページの更新に気づけることもある。それほど期待していなかっただけに意外な便利さが印象的で、今も新規タブはTop Sitesのままにしている。

しかし正直なところ、頻繁に表示するページを自動リストする機能は余計とまでは言わないが、無くても構わない。自分の周りで、これでWebブラウザの使い勝手が一変しましたという感想も聞いたことがない。それなのになぜWebブラウザ・メーカーは、競争するかのように同機能の開発にリソースを投入するのだろう?

そんな疑問を抱いていたら、MozillaもMozilla Labsを通じて「About:Tab」という同様の機能を提供し始めた。どうやらFirefoxにも搭載される可能性があるようだ。

ブランクの新規タブは実用性0%

About:Tabは新しいタブのデザインコンセプトを試してもらうために試作されたもので、Firefox 3.1(β2)用のアドオンとして提供されている。導入して新規タブを開くと、右半分がQuick-accessバー、左半分がContextual Actionsになる。

左半分がContextual Actions、右半分で頻繁にアクセスページのサムネイルがストリップ表示される。なおAbout:Tabはデザイン確認用のプロトタイプなので、導入しても"大体"という感じでしか動かない。実用レベルにはほど遠い状態なので、導入には慎重になることをお勧めする

Quick-accessは、ユーザーが頻繁に利用するWebサイトをサムネイル形式で自動表示する機能だ。ページの選別は、Awesome Bar(Firefox 3のロケーションバー、履歴からURL入力を支援)にも用いられているFrecencyスコアをベースとしている。

Contextual Actionsは、Webブラウザ利用を効率化するワンクリック・アクション機能だ。例えば、テキストを選択して新しいタブを開くと、そのテキストを検索するアクションが新規タブ内に表示される。住所を選択した場合は、検索アクションまたはマップ検索アクションを選択できるという具合だ。

住所をハイライトして新規タブを開いたところ。Contextual ActionsでWeb検索とMap検索を選択できる

この新タブのコンセプトをAza Raskin氏が初めて紹介したのは昨年8月のことだった。新規タブをブランクにしているユーザーが多いが、ブランクページは「実用性0%」であり、これを活用しないのはもったいない。だからといって機能盛りだくさんにしては、ロード時間が作業のマイナス要因になってしまう。ブランク・ページをゼロとして、ユーザーに空気のようなプラスアルファをもたらす必要がある。Raskin氏は、これを「ゼロコスト・アクション」と呼んでいる。

その際にRaskin氏が答えとして挙げていたのが「検索」と「(ブラウザ利用の)ストリームライン化」だった。同氏の場合、新しくタブを開くときの90%が検索目的だという。いささか高すぎるような気がするが、ほとんどのブラウザユーザーにとって検索が上位機能であるのは間違いない。Awesome Barのような入力支援機能を組み合わせて検索をパーソナライズ化すれば、ユーザーにとってのプラスアルファがさらに高まるだろう。一報ストリームライン化とは、内容に応じて動作を自動化する"コンテスチュアル・アクション"である。例えば、Webサイトに記されている住所をマップ検索する場合、「住所(テキスト)を表示」「コピー」「新しいタブを開く」「マップ検索に行く」「住所を貼り付け」「検索実行」というステップを踏んでやっとマップにたどり着ける。これをハイライトして新しいタブを開くだけで目的の情報を得られるような能率的なステップに変える。ほかにも朝に天気予報、夜にニュースサイトを訪れる傾向のユーザーには、そのパターンでおすすめページを表示するような例が挙げられていた。

このコンセプト案からスタートし、機能の取捨選択、デザイン提案を経て、プロトタイプ付きの提案に至ったのがAbout:Tabである。

個人とWeb全体を結ぶブラウザ

同じ昨年8月にRaskin氏はUIデザイナーという立場から、今後5年間のWebブラウザとWebの方向性として以下の5つを予測していた。

  1. Webブラウザ(インタフェース)がユーザーをオブジェクトではなく人として扱う。
  2. 「アンビエント+ノーコスト・インタフェース」。自然な形でユーザーにプラスアルファを提供するインタフェース。
  3. 「リアル+継続性」。Web体験はデバイスごとではなく、ユーザーと共にあるべきという考え方。例えばPCのWebブラウザで最後に開いたタブ、追加・削除したブックマークなどが、他のPCのブラウザや携帯のブラウザにも反映される。
  4. 「Tab 2.0」。タブは多数のウインドウに画面が占領される状態を解消したが、今日のユーザーは多数のタブが並ぶ状態に悩まされている。タブは2つを見比べられないし、タブまたはタブセットごとの機能にも制限がある。WebブラウザがOSのような存在に近づくにつれて、それに応じたTab 2.0が必要になる。
  5. 「ボーダーレスな機能」。Webはリンクというか細いつながりで結ばれているのみで、情報は分散している。例えば友人にレストランの場所を教える際、メールにWebサービスのマップを追加することもできない。マップへのリンクを記載するしかないのが現状だ。

今ふり返ってみると、Mozillaの新しいタブのコンセプトには、いずれの方向性にも向けた提案が含まれていた。それがそぎ落とされて現実的な形となったAbout:Tabではぼんやりとしかイメージできない。おそらくOperaやChrome、Safariも同様ではないだろうか。よくアクセスするサイトの自動リストは一見それほど重要な新機能には思えないが、実は、頻繁にアクセスするページを選別するアルゴリズムやステップの短縮化、それらを提示するインタフェースなどにWebブラウザの今後を見据えた試みが見え隠れする。「SafariのTop Sitesで任意のページを追加できないのは不条理!」と怒らず、今後もしばらくつきあってみようと思う。