WIREDでClive Thonmpson氏が、電力会社Southern California Edison (SCE)の省エネ・プログラムを取り上げていた。SCEのプログラム開発マネージャのMark Martinez氏が一般家庭の節電を促進するために、120台のAmbient Orbを購入して利用者に試してもらったという話だ。節電効果に合わせて色が変わるように設定したところ、Orb利用者のピーク時の電力消費量が約40%も減少したという。

ワイアレスでデータを受信し、データの変化に応じてその色を変えるAmbient Orb

Thompson氏の記事が気になったのは、シリコンバレーでも電力会社Pacific Gas And Electric (PG&E)が2006年に「Energy Orb」という名前でAmbient Orbを省エネ・プログラムにテスト導入していたためだ。対象は、製造業、大学、病院、オフィスビル、研究所、美術館など、200キロワット以上を消費する大規模なビジネスや組織。受け付けや食堂など全ての社員が目にする場所にEnergy Orbを設置し、その色で電力供給がトラブルに陥る可能性がある時期、節電プログラムが実施されている時期などを一目で確認できるようにした。大量の電力を消費する顧客が臨機応変に節電に協力することで、電力供給の危機的な状況を回避するのがPG&Eの狙いで、顧客は効率的な電力コスト削減を実現できる。以来、どの程度の効果があったのか気になっていたのだが、いつの間にか記憶から消え、Thompson氏の記事で久しぶり思い出した次第だ。SCEのテスト結果に限って言えば、Orb効果は想像以上。実はPG&Eも手応えをつかんでいたようで、調べてみると現在、同社はEnergy Orbを「PG&E Demand-Response Energy Savingプログラム」を通じて販売している。1台149ドルだ。

「痩せろ」は禁句

カリフォルニア州の電力危機以来、電力会社は対策の一環として、利用者にも節電意識を浸透させようとしてきた。たとえば月々の請求書に、ユーザーの消費量の月々の変化や昨年同時期との比較、電力供給の状況説明などをより細かく記載するようになった。ただ必要性を説き、節約を促しても、一般利用者にとって節電は面倒なことに過ぎない。電力会社が懸命になるほどに、利用者から煙たがられる面も出てきた。

そこで押しつけがましくならないように、節電をアピールするために電力会社が目をつけたのが消費電力モニターだ。「痩せろ」と言うのではなく、「体重計/体脂肪計ってこんなに便利ですよ」と宣伝して、ダイエットに興味を持たせる。

ただ地味に数字が表示されるだけのモニター器では、近寄らないと数値を確認できないし、変化も分かりづらい。それでは節電の習慣に結びつかないので、数字ではなく、色で状況や変化を確認できるOrbを試し始めたのだ。利用者にとっては、赤や黄色を緑色に近づければいいのだから分かりやすい。差しっぱなしにしていた充電器を抜いたり、PCのスリープ設定を徹底するなど細かい積み重ねの成果をすぐに実感できるので、節電にもやる気が出てくる。そのビジュアル効果が、ピーク時40%減という結果につながったのだろう。

P3のKill a Watt。一時話題になったが、数字だけでは節電を実感しにくい Consumer Powerlineが提供している「Energy Joule」。節電状況を現すOrb機能に加えて、天気や気温、消費電力、電力コストなどが表示される優れもの

Thonmpson氏の記事では、SCEの成功を受けて、利用者が節電データをネットで公開・比較できる仕組みを提案していた。グループになってゲーム感覚で競争すれば、気がゆるむことなく節電に励める。また競争しているグループ全体の節電量が判れば、新たな目標ができ、コミュニティ規模での節電努力につながるとしている。

たしかに地味で面倒な作業でも、データを視覚化し、エンタテインメントの要素を加えることで楽しくなる。個人的には、ジョギング/ウォーキングのデータを集計する「Nike + iPod」が、使い始めからちょうど1年を超え、トータル距離が1,000キロを突破した。特に1,000キロを目標にしていたのではなく、むしろ1カ月50キロというようなへなちょこな目標しか設定していなかった。ところが走った距離の変化をグラフで確認し、グループで競争したり、全米で何番目というようなスケールの大きな比較をしながら走っているうちに、思った以上に距離が積み重なった。

Energy Orbはデータを見せる方、Nike + iPodはデータの収集側に専用デバイスが用いられている。入り口と出口の違いはあるが、ユーザーをデータに接しやすくするという点では共通している。パソコンよりも身近で、ネット・フレンドリー、そしてユーザーインタフェースに優れる。そういうデバイスが今後は存在感を示すようになるのだろう。

2001年に登場して以来、「面白いけど、有効な使い途がない」と言われ続けていたOrbが認められ始めたことを考えると、特にユーザーインタフェースが重要。その点ではiPhoneも面白い位置にいる。