ドラゴンボールファンの副社長と面談
2007年4月16日午後9時、私は三井ガーデンホテル銀座プレミアのロビーで台湾から来日したばかりのある方を待っていた。その方とは台湾大手半導体ファブレスメーカー、Realtek Semiconductorの副社長、Yee-Wei Huang氏であった。彼は待ち合わせの時間に数分遅れてロビーに姿を現した。小柄ながら気品を漂わせる容姿だった。
ロビーの隅に設置してあった丸テーブルに向かい合って座った。面談中に台湾人のDr.Huangは米国で博士課程を修了し、長年Motorolaに勤務していた経歴の持ち主であり、Motorola在籍中、自分の大切なProjectに「Dragon Ball」と命名したほど、日本の漫画"ドラゴンボール"の大ファンであることがとても興味深かった。
彼の初対面の印象は、とてもスマートで見識があり、そして笑顔が素敵な紳士であった。2人の面談は2時間以上に及んだ。私はとても心地良い時間を共有出来た歓びを胸にホテルを後にした。
CEOと他の副社長とは電話面接となった。そして雇用条件に関しては人材紹介会社を介さず、Dr.Huangと直接交渉する事となった。両者の合意によって、私のリアルテックセミコンダクタージャパンの入社日は2007年5月28日とした。
入社前のある週末、妻と一緒に新横浜駅周辺にあるリアルテックジャパンを見学に出かけた。リアルテックセミコンダクタージャパンが入居していたビルの外観を一目見て、横浜みなとみらいランドマークビルとの格差に愕然としてしまい、言葉を失ってしまった。妻と顔を合わせて苦笑いをしてしまったのを思い出す。後になって、その時点ではすでに別のビルへの移転が決定していたことを教えてもらい、正直救われる思いがした。
リアルテックジャパンの社内はパーティションが高く、閉塞感が漂っていたので、オフィスの雰囲気を一掃すべく、ザイコ―ジャパン設立当時から長年に渡り斬新なオフィスレイアウトを提案してくれた梅本/小平ペアに要望をぶつけ協力を要請した。梅本/小平ベアとは彼らが浅野商事のオフィスデザイン室にて活躍していた頃に出逢い、そして独立した後でもオフィスデザインに関して継続的な支援を得ていた。そして二人の発想でとても機能的なオフィス空間を創造してもらった。
日本語と中国語が近いできる人材の採用を決意
言葉が障害となり、日本と台湾本社との担当者レベルでのコミュニケーションが欠如していた現状を踏まえ、新規採用者としては中国語を母国語とし、日本語が堪能な人材をメインに雇用する決断をオフィスマネジャーである今井氏と共に下した。
そして2008年5月、一期生として台湾、中国出身の女性を各1名採用した。2人とも半導体業界は未経験であった。翌年は二期生として一期生同様、台湾ならびに中国出身の女性で半導体業界の未経験者を2名採用した。そして2011年には、三期生として台湾人男性1名、中国人男性、女性1名ずつ総勢3名が入社を果たした。
リアルテックセミコンダクタージャパンの採用は全社員による面接試験が基本であり、面接官の採点によって合否が決定されるシステムを構築し、維持出来た事は大きな誇りである。
採用したすべての台湾人スタッフがそれぞれの事情によって、入社1年未満で退職してしまったのは、まったく予期せぬ不運な事態だった。一方、中国出身の一期生である鄭(てい)さん、二期生の曾(ぜん)さんは、会社の期待を背に努力を積み重ね、今ではリアルテックセミコンダクタージャパン営業の中心的な存在として活躍中である、私は2人の頑張りに対し心から敬意を表し、そして彼女たちの益々の活躍を楽しみにしている。
上司であるDr.Huangとは入社後直ぐに、Yee-Wei/Makotoとお互いに呼ぶ仲になった。そして毎週基本的には月曜午前8時になると電話会議を行い、一時間以上情報交換を行った。Yee-Weiとの週1回の電話会議は上司と部下の関係が継続していた3年間続いた。Yee-Weiは2~3カ月に一回の頻度で来日してくれて、私との顧客訪問や国内代理店のマネジメントと会食を共にし、親睦を深めた。苦い想い出としては、一度だけYee-Weiと一緒に東京駅で飛び乗った新幹線ひかりが出発後、新横浜駅を通過してしまい、2人で慌てて次の停車駅静岡で下車し、渋々新横浜駅へUターンした失態があった。
社長としての私は、スタッフ全員に週報と議事録(顧客訪問後原則24時間以内)の提出を徹底させ、四半期ごとにMBOと呼ばれる行動計画を策定してもらった。社員全員参加のMK(著者のイニシャル)スタッフミーティングは隔週月曜午前中に開催された。時間厳守は決まり文句であり、1分遅刻毎に罰金100円を徴収しようと試みたが、残念ながら特別収入には繋がらなかった。全員いつもOn Timeで出席してくれた。Common Value(共通の価値観)としては、特に"国籍、性別、年齢に関し無差別、男女平等、そして相手の立場を尊重"に注力し、社内に浸透させた。
(次回は11月22日に掲載予定です)
著者紹介
川上誠
サンダーバード国際経営大学院修士課程修了。1979年 Intel本社入社。1988年ザイコ―ジャパン設立以降、23年間ザイログ、ザイリンクス、チャータードセミコンダクター、リアルテックセミコンダクターなどの外資半導体メーカーの日本法人代表取締役社長を歴任。そして2012年ハーバード大学特別研究員に就任