電子メールの普及により仕事の効率は格段に上がりましたが、オフィスの現場で問題となってきたのが、「私用メール」の問題です。「このぐらいなら大丈夫ではないか?」と思ってついついやっているうちに、業務に支障をきたす可能性もあります。

こうした場合、会社による処分が考えられますが、その処分がどういうものになるのか、どんな処分なら妥当なのか、必ずしも明確に認識されているとはいえません。

今回から2回にわたって、私用メールの問題について考えます。今回は、私用メールをしたことによる処分の有効性などについて、上司から処分を通告された会社員のケースを例にみていきます。(編集部)


【Q】上司から「私用メール」で注意、どんな処分があるのでしょうか…

私は、会社のPCを使って、勤務時間中に、学生時代の友人と私的な内容のメールを頻繁にやりとりしていました。それを知った上司が、友人と私用メールをしたことに関して、私に対し厳しく注意して、会社から処分が下る予定であると言われました。会社のPCを使った私用メールには問題があるのでしょうか。また、仮に問題があるとした場合、会社からどのような処分を受けることが予想されるでしょうか。


【A】業務の遂行に支障がある場合は、懲戒処分もあり得ます。

勤務時間中も含めて頻繁に会社のPCを使って私用メールを行うことは、会社の設備であるPCを使用していることや職務専念義務の点から考えて問題があるといわざるを得ません。私用メールを理由とした会社の処分については、私用メールが頻繁であり会社の業務の遂行に支障を及ぼすような場合には、懲戒処分に相当する場合も考えられます。また出会い系サイトの利用などメールの態様・内容によっては、会社の対外的信用に大きな影響を及ぼすこともあり、懲戒解雇などの厳しい処分もあり得るでしょう。


「私用メール」に関する裁判例の基準

最近では、会社のPCを使った従業員による私用メールをめぐって、裁判紛争へと発展するケースも増えています(※)。

※ 以下に登場する各裁判例の詳細は、『情報セキュリティの法律』(岡村久道著)279ページ以降を参照

実際に、会社の従業員が会社の情報システムを利用して送受信した私用メールを、会社の上司がその従業員の許可なく読んだことなどがプライバシー権の侵害にあたるとして、慰謝料の支払を求めた事件(F社Z事業部事件、東京地裁平成13年12月3日判決)や、就業時間中の私用メールの利用などを理由とする解雇の効力が争われた事件(グレイワールドワイド事件、東京地裁平成15年9月22日判決)などがあり、この問題を考えるための参考となります。

これらの裁判例のうち、F社Z事業部事件判決は、私用電話の場合を例に出して、会社における職務遂行の妨げにならず、会社の経済的な負担が軽微である場合には、必要かつ合理的な限度の範囲で、会社の電話を私的な用事で使うことも許されるものであり、このことはメールでも基本的に妥当すると述べています。

会社のPCは会社の業務に使用されることを前提とされていることや、会社との雇用契約上、勤務時間中は職務に専念すべき義務があることなどを考えますと、私用メールをすべて許されないものと言えないとしても、一定の制約を受けることはやむを得ないというべきです。

前記裁判例の基準で述べるように、会社における職務の遂行の妨げになるような場合には、職務専念義務との関係からすると、私用メールは許されないことになるでしょう。

なお、会社の経済的な負担の面に関しては、インターネット利用料について定額制が一般的となっている現在では、私的な事業のために大量の広告宣伝メールを送信して会社のシステムに大きな負担を掛けたようなケースを除けば、問題となる場合は、おそらく例外的ではないかと思われます。

そのため、基本的には会社の職務遂行の妨げになるか否かを基準として、判断すればいいと考えることができます。

本件の私用メールは「問題あり」

今回の事例については、どのように考えるべきでしょうか? 勤務時間中も頻繁に私用メールを行っているとのことですので、職務の遂行に大きな影響があるものと推測することができます。従って、会社の職務遂行の妨げになるものとして、今回の私用メールには問題があるといわざるを得ません。

なお、前記裁判例では、従業員の職場において私用メールを禁止するような具体的な社内規定はありませんでしたが、「限られた私的目的を除いて業務以外の情報通信システムの利用を禁じた行為規範」に違反したものとして懲戒権が及ぶとした裁判例(モルガン・スタンレー・ジャパン仮処分事件決定、平成16年8月26日決定)もあります。

仮に会社のPCを使っての私用メールを制限するような具体的な社内規定がある場合には、それをどのように考えるべきでしょうか。

会社のPCはあくまで会社の設備であり、会社にその管理権があることからして、基本的には社内規定に従うべきと考えたほうが無難でしょう。

会社からの処分は?

それでは、私用メールに問題があるとした場合に、会社から、どのような処分が下るでしょうか。

そもそも、懲戒処分には、戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇などがありますが、会社が懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分事由と手段を規定する必要があるとされており、原則として就業規則などの規定がない限り、懲戒処分はできないことになります。

また、懲戒処分が可能な場合でも、行為の性質及び態様その他の事情に照らして、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされます(労働契約法第15条)ので、処分の相当性も求められます。

以下は、就業規則などに懲戒に関する規定があることを前提に、処分の相当性を検討していきます。

「懲戒処分」の有効性が争点に

裁判例をみてみますと、前出のグレイワールドワイド事件は、従業員が送受信したメールは1日あたり2通程度で、職務専念義務に違反したものとして解雇処分とされたため、解雇が無効であるとして争いになったというケースでした。

この事件の判決は、職務の遂行の支障にはならないとして職務専念義務違反を否定するとともに、解雇が客観的合理性・社会的相当性を備えているとは評価し難いとして、解雇権濫用にあたり解雇も無効であるとしました。

一般的には、わずかな私用メールの範囲内であれば、職務の遂行の支障となるまでに至ることは考えにくいはずです。仮に、職務の遂行の支障に至るほど私用メールが頻繁に行われていたとしても、懲戒解雇のような重い処分は、処分の相当性を欠くことを理由に、無効とされる場合もあり得るのではないかと考えられます。

重い処分になるケースもあり注意

但し、私用メールの態様や内容によっては重い処分がなされることもあり得ますので、注意が必要です。

専門学校の教師が学校のPCを使用してインターネット上の出会い系サイトに投稿してメールを送受信したことを理由に懲戒解雇としたケースがあります。このケースで第一審判決は、懲戒解雇を解雇権の濫用にあたるとして無効としました。

これに対し、控訴審では、学校の品位、体面および名誉信用を傷つけることなどを理由に懲戒解雇をやむを得ないものとして懲戒解雇は有効であると判断しました(K工業技術専門学校事件判決、福岡高裁平成17年9月14日)。

また、雇用されていた会社の社長らを誹謗中傷するメールを親会社・関連会社の役員・取引先などに送付したことを理由に普通解雇された事案でも、送信されたメールには事実に反する点や憶測が含まれており、その表現方法が甚だ不穏当なものであることなどを理由に、解雇権濫用にはあたらないと判断されました(日本ビー・ケミカル事件判決、大阪地裁平成14年11月29日判決)。

以上のように、メールの態様や内容などによって会社の対外的信用を害するような場合には、私用メールが職務の遂行に支障が生じたか否かにかかわらず、その態様や内容だけを理由に解雇処分とされる場合もあり得ますので注意が必要です。

(尾形信一/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/