今年の1月25日の午前、首都圏エリア中心にNTTドコモの通信障害が発生し、最大252万人に影響を与えたとされるニュースは記憶に新しい。2月15日には総務省がKDDIに対してauの通信障害で行政指導を行っている。共に通信機器の障害が主な原因であると発表したが、昨年から爆発的に普及しているスマートフォンによる通信量の増加で各キャリアは、さらなる設備投資の対策が急務となっている。
2月17日に総務省は通信障害が相次いでいる問題で、すべての携帯電話会社を対象に設備の総点検を求めることを決めた。
NTTドコモが発表した今回の通信障害の発生原因に、「スマートフォンのアプリケーション(VoIP、チャット等)が急激に普及したこと」と明言したことが話題となった。ここで言う「VoIP、チャット」アプリとは「Skype」や「カカオトーク」「LINE」といった無料IP通話アプリやメッセンジャーアプリを指している。通信キャリアが特定のアプリケーションを指摘するのは異例であり、ユーザーがそれだけ利用しているという表れでもある。
これらの背景から「グループチャットサービスの登録率及び利用実態調査(調査期間:2012年2月10日~14日)」を実施し、チャットアプリの普及度合い、拡大する背景をレポートしたい。
スマホユーザーの4割が利用するグループチャットサービス
まずグループチャットサービスの利用率を調査したところ、「登録し利用している」が42.7%、「登録しているが利用していない」が15.9%と、合わせて6割近くのスマートフォンユーザーがグループチャットアプリを登録していた。登録者の7割がアクティブに利用している計算になる。SNS同様にコミュニケーションツールならではのアクティブ率だ。
チャットアプリ人気は「LINE」「Skype」「facebookメッセンジャー」
現在、AppStoreなどのアプリマーケットにチャットやIP電話のアプリが複数ある。有名なアプリとしては「Skype」や「facebookメッセンジャー」などがあるが、現在の人気アプリ動向を調査すると、利用している順に「LINE(60.6%)」「Skype(15.9%)」「facebookメッセンジャー(10.6%)」となり、LINEの一人勝ちの結果となった。
1月27日に「LINE」の運営元であるNHN Japanが発表した、アプリダウンロード数1500万人突破のリリースはインパクトがあったが、それを立証する結果である。1500万DLの内、国内は550万DLと発表していることから、国内のスマートフォン普及数からいってかなりのダウンロード数である。特筆すべきは国産アプリ(NHN社は韓国企業であるが、LINEはNHN Japanが企画・開発元)である点と、2011年6月のリリースから1年も経っていないことである。豊富なスタンプやCMにタレントのベッキーさんを起用するなどターゲットが明確であり、マーケティング戦略が非常に優れている。
余談になるが、今回の調査を受けてLINEのマーケティングを調べる為に、MMD研究所ではNHN Japanに取材を行ったので、是非、読んで頂きたい。コラム読者の皆さんにとってマーケティングのヒントになると思います。
MMDインタビューVol.4
「LINE」大ヒットの裏側に徹底的なマーケティングリサーチ ヒットの理由に迫る
チャットアプリはメールの代替になりえるのか?
さて、FacebookやTwitter、mixiなど多くのSNSが利用される中、なぜ、チャットアプリは利用されているのか。ここで興味深い2つの調査結果を見てみよう。
グループチャットサービスの便利な点について聞いたところ、「メールより簡単にメッセージが送れる」が79.5%、「同時に数人とチャットができる」が50.0%「過去の会話が残っている」が47.7%という結果となった。また、グループチャットサービスを利用し始めてからメールを送る頻度に変化があったかを聞いたところ、「かなり減った」と回答したユーザーが25.8%、「少し減った」と回答したユーザーが18.2%と、合わせて43.9%がキャリアメールの利用が減ったと回答していることがわかった。
メールがコミュニケーションツールとして無くなることはないが、リアルタイムで気軽な会話ができ、タイムラインに会話が残るチャットは確かに便利である。チャットは新しい技術でもサービスでも無いが、アプリとしてスマートフォンのバックグラウンドで常時起動し、着信のレスポンス性や電話帳がSNSと連動している点など、利便性が進化した結果の利用率であることが新しい点である。
2012年もチャットアプリはスマートフォン端末の普及に比例して拡大することは容易に想像できる。課題は冒頭で記したキャリアのインフラ面とバッテリー消費が激しいといったハード面、そして個人情報漏洩やコミュニケーショントラブルなどのプライバシー保護の面であろう。筆者は、LINEを含めて多くが無料モデルを採用していることから、各社がフリーミアムモデルからのマネタイズの手法に注目していきたい。
次回はもう1つのテーマである無料通話サービスVoIP(IP通話)アプリについて寄稿したいと思います。
調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。
今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで一部公開しています。
<本稿執筆担当 : 吉本 浩司>
著者紹介
MMD研究所
MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。