国内メーカーのタブレット普及のカギはお風呂?

4月に発売された「iPad2」。同製品の電子部品を出荷している台湾Foxcomが、第3四半期の出荷数を1400万台から2000万台へと上方修正するなど、タブレット市場は拡大しています。

その一方で9月にSHARPより発売され、ネーミングで話題になったタブレット端末「GALAPAGOS」が、販売からわずか10ヵ月で販売終了するなど国内メーカーのタブレット端末は苦戦を強いられています。

最近では、docomoの次世代通信サービスの「xi」搭載端末や「WiMAX」搭載端末など通信速度の速さをウリにしたタブレット端末が登場するなど、市場はまだまだ活気のある状態です。国内メーカーも、さまざまな強みを活かした端末をリリースしていますが、「タブレット = iPad」というユーザーの認識はまだまだ変わっていないように思えます。

当研究所が11月8日~11月13日の期間に実施した「タブレット端末の所有率及び、満足度調査」の結果から、6月に調査したデータと比較して、ユーザーの意識に大幅な変化がありました。

国内メーカーからだされている端末が一般ユーザーに浸透しない理由は何でしょうか。今回の調査結果とともに普及のカギを探してみたいと思います。

なお、この調査はモバイル・インターネットWEB上で行われ、395人の有効回答もとにした分析となっています。

「タブレット端末 = 高い」のマイナスイメージは払しょく?

今回の調査では、タブレット端末の非所持者に訊いた「タブレット端末を持たない一番の理由は何ですか?」という設問の回答に、大幅な変化がみられました。

前回6月の調査で1位となった「価格が高いから (36.1%)」という理由が、なんと2.6%まで減少しています。

調査母数に差があるとはいえ、一般ユーザーにとって「タブレット端末 = 高い」というイメージは無くなったのではないでしょうか。

価格帯でいえば、「iPad2」をはじめ、3万円後半~4万円台の端末がメインとなっていたのが、1万円台から購入できるLenovoやAcerなどの割安な海外メーカーの製品が増えたことが理由だと筆者は考えています。

しかし、「今のモバイル端末(スマートフォン・PC)に満足しているから」というユーザー数は増加しています。モバイル端末と一括りにしていますが、夏・秋モデルのスマートフォンが普及したことが一番の原因だと考えています。

私見ではありますが、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えたユーザーから見れば、スマートフォンとタブレット端末の違いはどこにあるか、わかりづらいのではないでしょうか。しかし今後は、スマートフォンを使い慣れ、タッチパネルの操作やAndroidOS、iOSに慣れたユーザーが増えた結果として、より高性能、大画面のタブレット端末を使いたいと思うユーザーが増えてくるのではないかと思います。

利用シーンは自宅が過半数越え! 利用シーン訴求が上手なApple

今度はタブレット端末の所持者にフォーカスを当ててみましょう。

タブレット端末を主に自宅(寝室やリビング)で使用しているユーザーは、iPadユーザーで58.3%、iPad以外のタブレットユーザーでも68.7%と過半数を超えています。この数字自体は、前回調査とあまり変わっていません。

しかし、ここで筆者が気になったことが1つあります。

実際のユーザーの利用シーンが、自宅がメインであるにも関わらず、端末メーカーはテレビCMを見る限り「高性能」などの機能訴求やイメージ訴求を多用しており、消費者が求める利用シーンを描けていないように思えます。ちなみに、筆者が見たテレビCMは富士通、SONY、東芝のタブレット端末です。

その点、AppleのiPadは「iPadでこんなことができますよ」というポイントを余すことなくテレビCMで表現しています。特に家族旅行の写真や絵本のアプリを紹介し、ファミリー層向けにも訴求しているのが印象的でした。

国内のタブレットにおいても、同じようなことができるアプリは多数あると思います。また、性能も同じ価格帯のものであれば、スペック的に大きな違いはありません。

Appleと国内端末メーカーの端末販売数の大きな差は、このような「ユーザーがどんなことができるのか」「タブレット端末を使うとユーザーの生活の幅がどんな風に広がるのか?」など、利用シーンを全面に出した訴求方法を行っていないという、端末性能やOS以外のところに表れているのではないでしょうか。

次の訴求シーンはお風呂? タブレット端末に追加して欲しい機能1位は「防水機能」

6月の調査では取得していませんが、今回11月の調査で「追加して欲しい機能は次のうちどれですか?」という質問を訊いています。iPadユーザー、iPad以外のタブレットユーザーともに、欲しい機能の1位は「防水機能」でした。自宅でも自宅以外でも水のトラブルによる故障が多いからでしょうか。

この点について、すでに国内メーカーの富士通が9月に初の防水タブレット「ARROWS Tab LTE(F-01D)」を発売しています。楽天レシピのプリインストール、子供用のホーム画面の搭載などまさに「自宅の利用シーンを想定したタブレット端末」ですが、ユーザーに訴求しているテレビCMは、人気アーティストを起用した高機能・ハイテクイメージがメインとなっていて、ファミリー向けの訴求が弱いように感じられました。

私見ですが、親子でお風呂の中で使うシーンや一緒に料理をするシーンなどで防水機能をアピールすれば、防水機能のないiPadにはできないことが表現され、興味を持つユーザーがもっと増えるのではないかと思います。

今回の調査を見てみるとタブレット端末の普及のカギは、以下の2点が重要であることがわかります。
● スマートフォン端末との差別点の啓蒙
● 利用シーンを訴求する宣伝プロモーション

各メーカーの製品ラインナップは揃ってきており、ユーザーの選択の幅は増えています。一方で、何ができるのか? ということに対する知識はまだまだ足りていないと思います。

今後、上記2点の訴求方法しだいでタブレット市場の流れは変わっていくのではないでしょうか。当研究所では、引き続き、タブレット端末の動向については定期的に調査を行っていきたいと思います。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで一部公開しています。

<本稿執筆担当 : 早野 竜馬>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。