スマートフォンアプリビジネスにおける実態と課題

今回は、今後スマートフォン関連ビジネスへの参入を検討している企業にとって、解決すべきコミュニケーション面での課題について触れていきます。

2011年10月にiPhone 4SがauとSoftBank、2つの携帯キャリアから販売開始されました。携帯キャリアから発売される機種の多くがスマートフォンとなり、スマートフォン市場は加速を続けています。モバイル関連ビジネスにおいても、スマートフォン関連のビジネスをメイン事業とする企業が増えており、広告、アプリなど多くのビジネスチャンスがあります。

当研究所では、これまでスマートフォンユーザーのインサイトに着目した調査結果を数多くリリースしてきましたが、今回は、スマートフォンアプリビジネスに関わるビジネスパーソン176人を対象に「スマートフォンアプリに関する業界動向調査」(調査期間 : 2011年10月26日~2011年10月28日)を行いました。

本稿では、スマートフォンアプリビジネスに参入している、もしくは参入を検討している「発注会社」と「アプリ開発会社」それぞれの回答を元に、スマートフォンアプリビジネスにおける実態と課題について考えていきます。

参入目的は「新たな収益源」との回答が67.7%に。しかし…

まず、スマートフォンアプリの発注会社を対象に、スマートフォンアプリビジネス参入の目的を聞いたところ、67.7%が「新たな収益源」と回答し、アプリビジネスにおける期待感が見える結果となりました。この結果は、いたって当たり前と言えばそれまでですが、一方で参入時の課題について聞いてみたところ、「収益モデルが見えていない」、「集客方法がわからない」と回答した企業がそれぞれ4割となりました。

新たな収益源の確保を期待しながらも、実はその実態について見えていないということは、収益の確保が目的ではなく、「スマートフォンアプリビジネスを行うこと(もしくは作ることかもしれません)」が目的となっており、手段と目的がずれていると考えられます。

このことは、実際に参入目的の回答として2番目に多かったのが「社内新規事業の一環(44.6 %)」となっていることからも想像ができます。付け加えておくと、この「収益モデルが見えない」との回答は、すでに参入している企業よりも、今後参入を検討している企業に多い結果となっています。

この点については、スマートフォンアプリビジネスに参入を検討している企業は、今一度「なぜスマートフォンアプリビジネスを行うのか」といった原点を振り返ってみてください。

アプリ制作で重視する項目は、受発注会社で似ているが…

さて、発注会社が実際にスマートフォンアプリの開発依頼を行う際に、どのようなことを検討しているか聞いてみたところ、ここではアプリの「目的(84.6%)」「ターゲット(81.5%)」「ユーザーベネフィット(52.3%)」「開発予算(33.8%)」という部分を決めていることがわかります。

逆に、開発会社側にも「アプリ開発を受託する上で、発注者に求める情報は何ですか?」と聞いたところ、アプリの「目的(69.8%)」「開発予算(66.0%)」「ターゲット(52.8%)」「ユーザーベネフィット(43.4%)」と順序は違いますが、同様の項目を重要視していることがわかります。

しかしながら、開発会社側が発注会社に対して持つ懸念点として、発注会社の依頼内容が「不明確(52.8%)」「漠然としている(49.1%)」「企画が詰め切れていないので、制作後の修正依頼が多い(45.3%)」といった回答が多くを占めています。

また、発注会社が開発会社に対してアプリ制作を発注する上での懸念点としては、「適正な価格が分からない(53.8%)」「自社にとって適切な開発会社がわからない(46.2%)」「見積りが不明瞭(29.2%)」という結果が出ていることから、受発注会社がそれぞれ同様の項目を重要視しながらも、精度面での差が出ていることがわかります。

この結果に対して、本調査の監修・協力を頂いたアプリヤ株式会社に、この状況について尋ねみました。

同社からは、「発注会社はおそらく、スマートフォンの利用シーンを踏まえた上での『目的』『ターゲット』『ベネフィット』が設定されていないのではないだろうか。アプリは、電車待ちや移動時に、外での検索やナビゲーションに活用されるなど、生活の中の隙間時間に利用される。また、こうした利用シーンにおいてユーザーが重視する情報に『時間(今に関連する)』『場所(ここに関連する)』『ソーシャル(友人知人に関連する)」がある。これらは、パソコンでのネットワークになかった即時性という価値が見出される傾向が強い」との考察を頂いています。

確かに、パソコンとも、フィーチャーフォンとも違いのあるスマートフォンという端末において、あらためて利用シーンを想定することは重要です。ただ、発展途中にあるスマートフォンアプリビジネス市場において、これらすべてを発注会社側で考えることは難しい側面も否めません。

アプリ開発では緻密なコミュニケーションが重要に

それでは、どのようにしたら発注会社と開発会社との精度差を埋めることができ、発注会社の目的が達成できるスマートフォンアプリ開発ができるのでしょうか。筆者としては、情報を多くもつ仲介企業の役割が重要になってくると考えています。

たとえば、広告代理店のように、開発会社やメディアコンテンツ運営会社といった多くの企業とつながりが強く情報が集まりやすい企業や、そのほか、本調査の監修・協力企業であるアプリヤが提供するスマートフォン特化型ビジネスマッチングサービス「APPLIYA STUDIO CONNECT」などを利用し、開発依頼内容を明確にして多くの開発会社へ一括で依頼して、自社にとって最適な会社を探す方法などが挙げられます。

つまり、アプリ開発における企業間での緻密なコミュニケーションが取れる方法を考えることが重要と思っています。

スマートフォン所有者が多くなるにつれ、スマートフォン関連ビジネスは今後も発展していくことは間違いありません。今回の調査結果から、スマートフォンアプリビジネスの活性化は、企業同士のコミュニケーション不足の解消が急務であると言えます。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで一部公開しています。

<本稿執筆担当 : 松田 健太郎>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。