本連載の第111~114回で、米海軍のイージス駆逐艦「ベンフォールド」を取り上げた。新しいフネではないが、イージス戦闘システムを一新して戦闘能力を大幅に高めた艦である。他の分野でも同様に、「中身」の部分を更新して戦闘能力の維持・向上を図る事例が多発している。

なぜ、延命改修を図るのか?

実は、この話、我が国にとっても他人事ではない。航空自衛隊のF-15、海上自衛隊の護衛艦やP-3哨戒機といった具合に、能力向上・延命改修を実施する事例がいくつもある。そうした状況の背景にどんな事情があるのだろうか。

基本的には「ドンガラの部分はまだ使える」が「戦闘システムの部分が陳腐化したので能力向上が必要」という話である。ドンガラとは車体・機体・船体・エンジンといった「プラットフォーム」の部分を指す言葉だ。これに対し、搭載するコンピュータ機器・ネットワーク機器・センサー類を、筆者は「アンコ」と呼んでいる。

そして、戦闘システムの部分を構成する主要素と言えば、コンピュータとセンサーとネットワークだ。つまり「軍事とIT」の領域は、延命改修の主役になる領域でもあるわけだ。

もちろん、ドンガラの部分だって使っていれば傷むし、古くもなるから、更新は必要である。艦艇の場合、米海軍ではHME(Hull, Mechanical and Electrical)という言葉を使っているが、これはつまり、船殼・機械・電気系統のことだ。

特に艦艇は海水につかっている時間が長いから傷みやすく、平素から定期的にドックに入れて、船体の清掃や再塗装、タンクの清掃、配管の清掃、といったことをやっている。しかし延命改修になると、配管の清掃ではなく交換になる場面も出てくる。

もっとも、船殼はともかく機械・電気系統になると電子制御化や更新改修が必要になることはある。特にエンジン周りは燃費改善や信頼性向上のニーズが大きいから、エンジンだけ手を入れることもあり得る。また、操舵室の機材を更新して最新技術を取り入れたり、省人化を図ったりすることもある。冒頭で触れた「ベンフォールド」も、イージス・システムだけでなく、実は艦橋の操艦・航法関連機材がゴソッと新しくなっていた。

同じアーレイ・バーク級イージス駆逐艦(フライトI)だが、左の「バリー」は近代化改修艦、右の「カーティス・ウィルバー」は未改修艦。外見はほとんど変わっていないが、中身は別物

飛行機でも、機体構造を補修したり、総取り替えしたりすることがある。そして、「航空機とIT」の第9回で取り上げた「HUMS(Health and Usage Monitoring System)」を導入して、日常的に負荷のかかり方に関するデータを収集することで、寿命管理を行っている事例がある。だから、ドンガラの話でもITが無縁というわけではない。

具体的にどこに手をつける?

F-15Jの近代化改修機なら、レーダーの更新や電子戦装置の強化やデータリンク機能の追加をやっている。護衛艦の改修では戦闘システムにはあまり手をつけていないようだが、「あたご」型イージス護衛艦はBMD(Ballitic Missile Defense)対応改修に併せて、「ベンフォールド」と同じ最新ベースラインへの更新を行うことになっている。

輸送機や空中給油機だと、民間分野での航空交通管制(ATM : Air Traffic Management)技術の変化に対応する、というニーズがある。ATM関連の規格や技術が変化したのに伴い、対応するための改修を図るのだ。民間管制下の空域を飛行する場面が多いので、そういう話になる。

戦闘機や攻撃機の場合、後から改良型が登場した時に、既存の機体を改良型と同じ仕様にそろえるための改修を行う事例がある。近年だと、サウジアラビアがF-15SAの導入に併せて、既存のF-15SをF-15SAと同仕様に改造する話が進んでいる。

では、車両はどうか。こちらも延命とともに能力向上を図る事例はある。米陸軍のM1A2戦車のうち、新造したものはごくわずかで、残りはみんな既存のM1、あるいはM1A1から改造したものだ。

最近だと、英陸軍のチャレンジャー2戦車を対象とするアップグレード改修の計画があり、メーカー各社が提案書を提出したところ。ただし、改修の対象はセンサーやコンピュータで、120mm戦車砲には手をつけない。チャレンジャーは他の欧米諸国と規格が違う砲を使っているので、他国と同規格の砲に換装するほうがメリットがあるが、そこまで予算が回らないらしい。

その英陸軍、ウォーリア歩兵戦闘車(IFV : Infantry Fighting Vehicle)の能力向上の改修も実施しているが、こちらはコンピュータやセンサーだけでなく武装にも手をつけて、砲塔を換装するとともに、搭載する機関砲も新しくする。そもそも機関砲を大口径化して威力を高めるのであれば、それに見合うようにセンサーの能力も向上させないと、宝の持ち腐れになりそうだ。

ちなみに車両の改修では、単に手持ちの車両を延命・能力向上するだけでなく、戦地で損傷した車両を持ち帰って修復する需要もある(そのついでに延命・能力向上を図ることもあり得る)。戦闘で損傷した車両を修復して元のコンディションに戻す作業を、米陸軍ではRESETと呼んでいる。

車両の改修では大抵、いったんバラバラに分解して整備・補修や機器・コンポーネントの交換を行うので、「作業完了後には新品同様!」とうたうケースが多い。そこまでおカネと手間をかけるのであれば、いっそ新品にするほうが、トータルで見て得ではないかとも思うが、直せる既存品があって、新品と比べて能力差が少ないとなると、「じゃあ直して使えよ」と言われるのだろう。

ちなみに、延命改修で手を入れることが多い部位のうち、センサーやコンピュータやネットワーク以外でITに関係があるところというと、電気配線がある。電線やその被覆が傷んだために新しくするとか、出番がなくなった余計な電線を取り外して軽量化するとかいう理由による。

使っていない電線が残っていると、保守点検や損傷修復の際に邪魔になる上に、混乱の元でもある。だから、マメに撤去するほうが望ましい。皆さんのオフィスや家庭で、用済みになった電源やネットワークの配線を放置していることがないだろうか?