2015年10月19日の朝、米海軍のイージス駆逐艦「ベンフォールド」(DDG-65)が横須賀基地に入港した。先に増強を発表していたイージス駆逐艦×2隻のうち一番手に当たる。入港に際して、同艦の艦内を取材させていただく機会を得ることができたので、その模様をお届けしたい。

横須賀に入港する「ベンフォールド」(Photo : US Navy)

新しいフネではないが、中身は一新

アーレイ・バーク級イージス駆逐艦は、ネームシップの「アーレイ・バーク」(DDG-51)に始まり、すでに60隻あまりが就役している。艦番号は1ずつ増えるから、「ベンフォールド」は15番艦ということになり、決して新しいフネではない。実際、艦内を見てみると、それなりに「古さ」が目につく部分はある。

しかし、同艦は日本への前方展開に先立ち、米国サンディエゴのBAEシステムズで大規模な近代化改修工事を実施して、中身を大幅に入れ替えてきた。戦闘システムの話は次回に取り上げることにして、今回は米海軍でいうところのHM&E(Hull, Mechanical and Electrical)の話をしよう。

といっても、HM&EのうちHull、つまり船体部分は、もちろん補修はしているのだろうが、使い古された印象もある。これが海上自衛隊なら、せっせとペンキをはがして塗り直しているところだろう。だが米海軍では考え方が違い、必要にならなければ、いちいち塗装のやり直しはやらないようである。

しかし、機械・電気系統は大幅に手が入れられた。その一例として、機関操縦室を挙げることができる。

操縦室といっても飛行機のコックピットとは意味が違い、艦橋からの出力増減指示を受けて機関の動作を指示したり、動作状況を監視したりするための部屋だ。航行用の機関(主機)だけでなく、発電機もここで管制している。

「ベンフォールド」では、その機関管制に使用する制御パネルが一新され、3面の液晶ディスプレイを備えた新型コンソールが据え付けられていた。液晶ディスプレイだから、実際に備え付けられている数や配置に合わせて機関の画を表示し、そこに動作状況を示すようになっている。グラフィカルで、なかなかわかりやすい。

コンソールにはキーボードとトラックボールも付いているので、カーソルを動かしてクリック操作をするとか、数値やコマンドをキー入力するとかいう場面もあるのかもしれない。いずれにせよ、外見はかなりスッキリしたコンソールだった。

といったところで、海上自衛隊のイージス護衛艦「ちょうかい」の機関操縦室を見ていただこう。大抵、「機関操縦室」と聞くと真っ先に連想するのは、こういう光景ではないか。こちらのほうがメカメカしく、いかにも機関を操りそうな雰囲気がある。

イージス護衛艦「ちょうかい」の機関操縦室。スイッチとアナログ計器が並ぶ、いかにも「機関操縦室」という雰囲気だ

建造時期を考えると、「ベンフォールド」も当初は「ちょうかい」と同じような造りだったのではないかと思われる。それと比べると、今の「ベンフォールド」の機関操縦室は、コンピュータ室みたいな雰囲気が強まっていた。当節では機関もコンピュータ制御にすることが多いから、それと組み合わせるコンソールも機械的な計器やスイッチではなく、コンピュータになるのは当然と言えるかもしれない。

変えてはいけないアナログ表示

しかし、コンピュータ制御のコンソールに変わっても、液晶ディスプレイに現れる機関の動作状態表示、つまり回転数、排気温、圧力、出力レベルいったものは、やはりアナログ表示なのである。コンピュータ制御なのだからデジタル表示で数字を出せば、と思いそうになるのだが、実のところそうはならない。

「航空機とIT」の第28回で取り上げたグラスコックピットにも通じる話だが、機械式計器がコンピュータ画面に変わっても、やはり盤面を針やゲージが動くデザインを使うケースが多くを占める。なぜか?

それは、数値が変化する幅や変化の速さ、あるいは複数の同種機器について動きが同調しているかどうかを知るには、数字が変化するよりも、針やゲージが動いてくれるほうが、視覚的にパッと理解しやすくて具合がよいからである。

例えば、左舷機と右舷機について、機関の回転数が上がっていく場面をモニターしているとする。回転数をデジタル表示すると、その数字の変化を読み取って、頭の中で一種の変換作業を行わなければ、「回転の上がり方が早いか、遅いか」あるいは「左舷機と右舷機で回転の上がり方が同調しているか」といったことがわからない。

ところが、針やゲージで表示してくれれば、針やゲージが動く速度、そして左舷機と右舷機の針やゲージが同調して動いているかどうかを視覚的にパッと把握できる。動作をモニターしたり、異変に気付いたりするには、こちらのほうが都合がいいのだ。一部の針やゲージだけが他と外れた動きをしていれば、「何かおかしい」とすぐ気付く。この、ワングランスでわかるというところが重要なのだ。

つまり、デバイスが新しくなっても、表示の仕方まで変えてはいけないのである。アナログ表示のほうが具合がいいことはあるのだ。

似たような話は身近なところにも存在する。クルマのスピードメーターだ。1980年代には、デジタルメーターがやたらと流行していて、特に高級車や上級グレードほどデジタルメーターを使っていた。

しかし、速度が数字で出て、その数字が1km/h刻みで増えたり減ったりしても、速度の出方をパッと把握するには具合が良くない。大抵のデジタルメーターはゲージ表示も併用していたが、変化の傾向を視覚的に把握するには目が粗すぎた。だから、今では大半のクルマがアナログ表示に回帰している。

鉄道車両の世界も同じで、いったんはデジタル表示を導入したものの、後になって機械式アナログ計器に戻した例がある。最近では液晶ディスプレイによるグラスコックピットが主流だが、そこではやはりアナログ表示なのである。