本連載の第83回で、富士総合火力演習の名物となっている出し物「富士山」を題材にして、砲兵の射撃について言及したことがある。この時は同時弾着射撃が中心テーマで、その前段階の「どう狙いをつけるか」という話が薄かった。そこで今回は、その辺の話をもうちょっと掘り下げてみよう。

砲兵は遠距離間接射撃

大砲というとみんな一緒くたにされてしまいそうだが、同じ「陸軍の大砲」でも、戦車が装備する戦車砲と、砲兵隊が装備する榴弾砲は同じではない。動作原理は同じだが、弾の飛び方が違う。

戦車砲は「カノン砲」に分類され、弾道はいわゆる低進弾道(平射弾道)である。つまり、どちらかというと真っ直ぐに近い飛翔経路で、目標は見通し線上にあって視認可能だ。

それに対して榴弾砲の弾道は、もっと高いところまで打ち上げる、いわゆる曲射弾道である。だから、目標が必ずしも見通し線上にあるとは限らず、時には山・丘陵・森林・建物などの背後にあって直視できない目標に向けて撃ち込むこともある。

そのため、砲兵隊には前線に出て弾着を観測する要員がつきものだ。最近の榴弾砲は昔と比べると射程が伸びて、30~40kmぐらいの製品がザラにある。すると、最大射程では地平線の向こう側まで撃ち込むことも起こり得る。そうなると、目標を直視できるところに「眼」を置いておきたい。もっとも最近では、生身の人間ではなく無人機(UAV)を使う事例も出てきているが。

さらに極端な曲射弾道をとるのが迫撃砲で、かなり大きな角度で弾を打ち上げる。だから、射程はあまり長くとれないが、物陰にいる敵を攻撃するには具合がよい。榴弾砲と違い、砲身が軽くコンパクトにまとまっていることが多いので、軽装備の歩兵部隊向け「お手軽火力」となることが多い。

戦車砲の弾は(実は、自動小銃の弾も同様だが)、厳密に言うと一直線には飛ばないが、これが榴弾砲や迫撃砲になると、さらに弾道の計算が難しくなる。しかも、横風の影響を受けるのは言わずもがな、上昇する高度が上がれば大気密度の影響も出るかもしれない。

何を言いたいのかというと、それだけ榴弾砲や迫撃砲で精確に狙いをつけるのは難しいということである。しかも、目標は動かない場合が大半だろうが、サイズが小さい。小さな建物や陣地をつぶしてくれ、と火力支援要請が来ることだってあり得る。

位置について、撃って、すぐ移動

実は、砲兵隊にとって難しい話がもう1つある。当節では、じっくり腰を据えて狙いをつけたり、狙いが外れた時に修正射を試みたりしている余裕がないのである。対砲兵レーダーのせいだ。

対砲兵レーダーとは、飛来する敵の砲弾を捕捉・追尾して、その砲弾を撃った敵の砲兵隊の所在を突き止めるための装備だ。これを使って敵砲兵隊の位置を割り出したら、そこに向けて味方砲兵隊が一気に砲撃を仕掛けて敵砲兵隊を叩きつぶす。これを対砲兵射撃という。英語ではカウンター・バッテリーだが、バッテリーが砲兵隊を意味するのでこういう。

ということは、「一発撃ったらハズレだった」「狙いを修正してもう一発」とやっている間に、敵の砲兵隊が対砲兵射撃を仕掛けてきて壊滅させられる可能性がある。だから、射撃陣地についたら一発必中の射撃を行い、それが済んだら直ちに陣地変換して別の射撃陣地に移動しなければならない。

だから、砲兵隊向けの射撃統制システムは、「現在位置を正確に知る」「風向・風速・気温など、射撃諸元に影響するデータを迅速に調べる」「後方の指揮所、あるいは前線部隊から送られてきた目標データを確実に受け取る」という機能が求められる。これらがそろって初めて、一発必中の射撃を行うために狙いをつける用意が整う。

「現在位置を正確に知る」は測位技術の問題だから、GPS(Global Positioning System)受信機などを活用する。GPSだと妨害される可能性もあるので、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)を使用する事例もある。

「風向・風速・気温など、射撃諸元に影響するデータを迅速に調べる」はセンサーの問題だ。これは必要なセンサーを用意したり、観測用の気球を上げたりして実現する。

砲兵向けの射撃統制システムを手掛けているメーカーのプレスリリースや製品ブローシャを見ると、「射撃陣地についたら、これだけ迅速に撃てます」といった売り文句を頻繁に見かける。売り文句になるということは、それが切実な課題になっているということである。

もちろん、迅速な陣地変換を可能にするには、実際に砲を移動する手段も必要だ。自走榴弾砲なら自力で動けるからよいが、牽引砲だと牽引車を連結して移動させなければならないので、その分だけ手間がかかる。

砲兵隊向け射撃統制システムの具体例

そして、「後方の指揮所、あるいは前線部隊から送られてきた目標データを確実に受け取る」は、通信機能の問題である。指揮所や前線部隊との間で信頼できるネットワークを構築して、最新かつ正確であるデータを受け取れるようにしなければならない。近年では、イギリス陸軍砲兵隊のウォッチキーパーみたいに、UAVを観測に使用する場面も出てきた。

米陸軍で、こういった機能を具現化するシステムとして導入しているのが、「AFATDS(Advanced Field Artillery Tactical Data System)」である。前述したように、砲兵隊には前線で弾着観測を担当する要員が不可欠だから、そちらからデータを送り込んでくるシステムも必要になる。そちらについては、「FOS(Forward Observer System)」というシステムを用意している。

当節では、大砲を1発撃つにも情報システムと情報端末が不可欠になっている。写真は米陸軍のAFATDSで使用する端末機・GDU-R(Gun Display Unit-Replacement) Photo:US Army

また、「FBCB2(Force XXI Battle Command Brigade and Below)」や「BFT(Blue Force Tracker)」のようなシステムを使って友軍の位置情報を把握しておけば、「誰かいるようだが、敵兵か友軍かわからない」という事態を回避しやすい。敵味方の識別をきちんとやらずに、「えいままよ」と発砲しておいて、後になって「一発だけなら誤射かもしれない」といっても許してもらえない。

ちなみに、陸上自衛隊にも似たような仕掛けがある。名前だけ挙げておこう。

  • 野戦特科情報処理システム(FADS : Field Artillery Data-processing System)
  • 火力戦闘指揮統制システム(FCCS : Firing Command and Control System)
  • 野戦特科射撃指揮装置(FADAC : Field Artillery Digital Automatic Computer)

これらのうち、一番新しいのはFADACのようだ。