第14回で「武装UAV(Unmanned Aerial Vehicle)の交戦に際しては、意志決定のために人間が介在する必要がある(いわゆる "man-in-the-loop")」という話を、第15回で「UAVと有人機の空域共有が課題になっており、研究と実験を進めている」という話を、それぞれ取り上げた。

単に同じ空域の中で共存して、互いに衝突を避けながら飛行するだけでも容易な仕事ではないのだから、戦闘任務となればなおのことである。しかも、脅威度の低い空域で空対地攻撃という限られた任務だけを受け持っているのが現在の武装UAVだが、さらなる任務範囲の拡大は可能なものだろうか?

無人戦闘用機の開発計画がないわけではない

2013年7月に「米海軍の無人戦闘用機・X-47Bが、空母ブッシュへの着艦試験に成功した」というニュースがあった。この試験に至る経過やX-47Bという機体そのものについては、「航空ファン」2013年10月号の拙稿「無人機の空母着艦という画期的事業を達成 - X-47B UCAS-Dのシステム」で詳しく書いた。

ただし注意したいのは、X-47Bが成功したのは「空母への自動着艦」であって、それ以上のものでもそれ以下のものでもない点である。この話を受けて「中国への対処を念頭に云々」というところまで話をすっ飛ばすのは、飛躍のし過ぎである。

なるほど、X-47Bの計画名称は「UCAS-D(Unmanned Combat Air System Demonstration)」といい、そこには "Combat" という単語が含まれている。そして、X-47Bの設計に際しては兵装搭載も可能な内容となっているのだが、現行のUCAS-D計画では兵装の搭載も投下も予定していない。あくまで、「実用レベルのUCAV(Unmanned Combat Aerial Vehicle)と同等の規模や内容を持つ機体を作って、実際に空母で飛ばして実証試験を行う」のが目的である。もうひとつの課題は空中給油試験なのだが、それとて戦闘任務の試験というわけではない。

米海軍では、UCAS-D計画の成果を活用する形でUCLASS(Unmanned Carrier-Launched Airborne Surveillance and Strike)という計画を進めることにしており、ボーイング、GA-ASI(General Atomics Aeronautical Systems Inc.)、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンの各社に対して、開発作業の契約を発注したところである。計画名称にあるように、「監視」と「攻撃」を兼用できる機体にするわけだ。

ただし、そもそも「戦闘」といっても幅が広い。空対空戦闘もあれば、空対地戦闘もあるし、それも相手はさまざまだ。さらに対艦攻撃もあれば、機雷敷設も戦闘任務に含む。その中からどれを担当させるのかが問題だ。

そこで「戦闘用機」という言葉に惑わされて、有人戦闘機が行っているのと同様の、空対空戦闘任務をUCAVが行うようになると思ってしまわないだろうか。

空母「ジョージH.W.ブッシュ」に着艦せんとするX-47B。無人の機体が空母に降りた最初の事例である(出典 : US Navy)

状況認識能力の問題

そこで、前回に取り上げた空域共有や状況認識の問題が関わってくる。UAVと有人機の空域共有では、前提として「互いに自機の周囲にいる機体との位置関係を把握していること」が求められる。これは空対空戦闘任務でも同じことで、自機の周囲に友軍機と敵機がどれだけいて、位置関係はどうなっているのかが分かっていないとまずい。

敵機がいるのに存在に気付かないと、不意打ちに遭って撃ち落とされる。だからこそ、戦闘機乗りには "check six" という標語があって、自機の真後ろ(6時の方向)への警戒を怠るな、と警鐘を鳴らしている。そして、戦闘機を設計する際には後方視界に配慮した設計にするもので、そのことはF-15やF-16のキャノピー配置を見れば一目瞭然だ。

空対空の実戦では、自機と敵機の位置関係を把握するだけでなく、どの敵機を攻撃するかを決めて戦術を組み立てて、それに沿って機を操り、有利な位置につけて兵装を発射する必要がある。その過程で敵機が回避行動を取ることもあるだろうし、別の敵機が割り込んでくることもあるだろうし、別の友軍機が目標をかっさらうこともあるだろう。もっとも、レーダーサイトやAWACS (Airborne Warning And Control System)機の管制指示を受けて任務を遂行する場合には、「割り込み」や「かっさらい」が起きることは少なそうだが。

空域共有が問題になっているのが現状なのに、さらにずっとレベルが高い空対空戦闘任務を無人の機体で担当させられるものだろうか。その昔、コックピットにカメラを積んで無線指令化する「ラジコン戦闘機」が登場するマンガがあったが、カメラは一度に全周を見ることはできないから、やはり状況認識能力に不安が残るという設定だった。かといって、複数のカメラを設置すれば、今度はその映像を集約・融合して意志決定に利用するという新たな課題ができる。

また、戦闘機は平時でも対領空侵犯措置任務に従事している。自国の領空に接近した正体不明機に対して接近、正体を確認するとともに退去を求めるのが主な仕事だが、そこでは本物の戦争に発展しないように微妙な判断が求められる。それを無人機のコンピュータにやれというのは難易度が高すぎる。

そんなこんなで、いくら看板に「Combat」の字が含まれているからといっても、UCAVが空対空戦闘任務を担当できるレベルまで成熟するのは、少なくとも予見可能な将来の範囲内では不可能ではないだろうか。それよりも実現の難易度が低く、かつ人命を危険に晒す可能性が高い任務に限定して、UCAVを投入するというのが現実的ではないかと考えられる。

それとて、技術的なハードルに加えて交戦規則の問題、他の有人機とのデコンフリクション(干渉回避)、職を追われかねないパイロットからの反発への対処など、考えなければならないことはたくさんある。だから、「無人戦闘用機という夢を見るのもほどほどに」と釘を刺しておきたいところである。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。