「新聞再生法案」提案理由をカーディン議員が説明

最近、一部のテレビニュースが米国における新聞界の窮状、「新聞再生法案」の審議の動きを報道した。伝えないよりは良いが、公聴会開催から一カ月、私が3月2日付の当コラム第23回で動きを伝えてから早や3カ月たっている。何ともスローモーな反応で、いかに日本の大メディアが欧米でのメディア革命を"他岸の火事"と見ている(見たい)かがうかがえる。

さて前回(第29回)に引き続いて、米公聴会での議論を紹介してゆこう。ジョン・ケリー委員長の冒頭あいさつの後、メリーランド州選出のベンジャミン・カーディン議員が、新聞再生法案の提案理由を説明した。

同議員は、まず選挙区の地元紙「バルチモア・サン」の窮状を訴えた。そして、以下のように救済策の必要性を強調した。

「コミュニテイ―・ペーパーは、単に地方政府や司法組織の活動を監視しているだけではない。地域に深く根ざした調査報道、解説、特ダネのほとんどは、地方紙記者の取材から生まれている。地元新聞社は印刷や流通を通じて雇用をもたらしており、地域経済にも貢献している」

新聞再生法法案の骨子は以下の通りである。

  1. 新聞社に教会や、公共放送、教育機関に適用している税免除の資格を与える。

  2. 公共的存在としての地方新聞を存続させるため 寄付を税法上優遇する。これは政府の干渉を避けるためで、自動車産業救済のように公費を投入することは考えていない。

  3. この結果、(優遇を受ける)地方紙は非営利団体となるから、これまでのように公職者への推薦は出来ない。しかし評論活動は自由である。

メイヤー副社長「Webはジャーナリズムに機会とチャレンジ提供」

この後、6人の公述人の意見表明と、これに対する議員からの質疑応答が行われた。

最初に意見表明を行ったのは、Google社で検索製品および利便性向上を担当している、マリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)副社長である。彼女は以下の三点を強調した。

マリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)氏(出典:Googleホームページ)

第一は、Webの検索装置がいかにニュースを求める個人と、(情報を提供する)ジャーナリズムとの間をつなぐ導管としての役割を果たしているかについて。

第二は、Googleがどのように、新聞発行者に経済的機会のみならず、(新聞発行者が)オンライン・ビジネスにより積極的に参加してゆく手段を提供しているか。そして第三に、Web自体がジャーナリズムの未来に機会とチャレンジを提供しているという点だ。

まず彼女は、情報入手のための環境条件が全く変化したことを指摘した。

「毎日、数百万人もの人が、Webを通じてさまざまな疑問への正しい回答を得ている。その回答はさまざまな形、Webページであったり、イメージ、ビデオだったり、そして無論、新聞からのニュース記事から得られており、そういう生活が日常化した」

検索エンジンは、新聞発行者のサイトにユーザーからのトラフィックを運ぶ役割を果たしており、それは一カ月で10億回にも及んでいる。またGoogle AdSenseは、これを利用している新聞発行者に2008年で50億ドルを超える収入をもたらしている。またGoogleは、地図検索、ストリート・ビューなどさまざまな情報共有のツールを提供しており、各新聞社と情報の交換、共有も行っている。

同時に彼女は、こうも強調した。

「ただGoogleはコンテンツ保有者の意思を尊重しており、サーチ・エンジン、Google Newsに掲載されるか否かは保有者次第である」

つまり、いやなら結構、でも繋がないで損をするのはどちらでしょう? と反問しているわけだ。

「ニュースの消費構造は個別の記事へと移行」と強調

最後に彼女が強調したのは、デジタル時代に入ってメディア・ビジネスの基本構造が一変したという点だ。例えば人は、パッケージとしての音楽CDを買うことはなく、真に気に入った曲を個別に購入するようになった。

彼女は以下のように言う。

「同じように、(デジタル時代の)ニュース消費構造は、(ニュースを網羅して価値づけた)フルページの紙面にはなく、そこから切り離された個別の記事へと移ったということなのだ。だから(新聞、雑誌)発行者は、初めての(サイトを訪れた)読者に必要、十分な内容を提供すると共に、繰り返し個別ニュースをフォローしてくる人のために、最新の情報を豊富に盛り込むことも必要だ、ということを知らなくてはならない」

結論として彼女は、「健全で独立したジャーナリズムの存立は、わが国の大切な価値であり、この目的のためGoogleは、可能な限りの多数の読者を新聞社のサイトに導くことで(彼らの)広告増収に協力してゆきたい」と述べた。

先にエリック・シュミットCEOが全米新聞協会で語ったと同じように、アグリゲイタ―、あるいはニュース最終消費者へのコンテンツ課金ではなく、あくまで広告モデルでの生き残りを模索すべきだ、という考えを繰り返したのだ。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。